今年もマイペースで株や医療に関する話題について、記事をあげていきますので、みなさまどうぞよろしくお願いいたします!
さて早速ですが、今日はTwitterで面白い本をご紹介頂き、私も読み終わりましたので紹介させて頂きます。
ターリ・シャーロット著
事実はなぜ人の意見を変えられないのか
The Influential Mind
What the brain reveals about our power to change others
という本です。
(一番下にリンク張っておきます)
この本の前提としては、データが示すある種の「事実」では「人の意見は変えられない」ということです。
本書はその理由や対策について、脳科学的な観点から様々な実験や事例を挙げて、分かりやすく解説しております。
本記事ではその中から何点かキーワードを挙げて、私なりに解説してみたいと思います。
この本の内容は育児やマネジメントにも活かせることだと思いますので、本記事で興味を持たれましたら、ぜひ本を読んでみてくださいね。
では本題に入る前に、事実は人の意見を変えられないという例を挙げてみましょう。
Contents
事実は人の意見を変えられない例
HPVワクチンのリスクとベネフィット
HPVワクチンの騒動はご存じですか?
子宮頸がんの原因となるHPVの感染を予防できるワクチンであり、世界中で接種されておりますが、日本ではワクチンのせいとされる「多様な症状」について、誤った事実が拡散されたため、現在でもかなり低い接種率を推移しています。
最近はみんパピ等の啓蒙活動の成果もあり、接種に対する風向きも変わりつつありますが、いまだ接種に抵抗のある方も多いかと思われます。
データを見れば、接種によるリスクは限りなく低く、接種することのベネフィットは極めて高い。
価格が高い等の現状の欠点は差し置いても、少なくともデータ上は接種について否定的見解は得られないと思っています。
だから「副反応がうんたら」という方がいることは信じられなかったですし、データを説けばそれで納得頂けるものと思っていました。
しかし現実を見れば、これが妄想に近いことは疑うべくもないでしょう。
銀行預金vs投資
もう一つ例を挙げましょう。
みなさんは株式投資はされていますか?
投資をされている方は既にご存じのとおり、長期的なリターンは大きく、よほどトリッキーなことをしなければ、かなりの確率でプラスになるわけです。
ですので、投資(投機ではない)をしている人にとって見れば、投資をしないという選択肢は非常に謎であるわけです。
銀行に預けていたって、スズメの涙にも満たない利息が付くだけであり、インフレによる預金価値の減少リスクもある中、インデックスでも買うこともできないのかと。
しかし投資を忌避する方に、これを説いてもなかなか投資をしようとは言いださないでしょう。
事実が人の意見を変えられないということについて、ご理解いただけましたか?
もちろんこれは0か100かの極端な問題ではありません。
事実が絶対とも限りませんし、その事実で人の意見を必ず変えられないわけではありません。
あくまで
そんな風にとらえて頂ければと思います。
いつもながら前置きが長くなってしまいましたが、次からはこの理由やどうすればよいかについて、キーワードを拾って解説していきます。
「事実」という情報の脳に与える影響の小ささ
医薬品の開発をしている私としては、データの持つ意味は非常に大きいです。
治験で統計学的有意差が出せなければ、その薬の有効性は認められないわけです。
同じように医薬品の副作用やワクチンの副反応についても、データを持って情報処理します。
しかしこのデータ、すなわち情報が脳に与える影響は思っているほど大きくないのです。
いや、そう言うと誤解があるかもしれません。
情報の与える影響以外にも、もっと多くの影響因子があるといった方が適切でしょう。
ではそれは何か?
意欲、恐怖、希望、欲望。
そのような原初的な感情が人間に与える影響というものは、情報が与える影響よりも強く脳に作用するのですね。
これは非常に重要なことです。
相手の意見を変えるためには感情に訴えることが必要なのです。
受け入れる情報の偏り
私たちは受け入れる情報に無意識に偏りをかけています。
つまり「自分の世界観にあった情報を意欲的に仕入れている」のです。
みなさんはTwitterが居心地が良いと感じますか?
私は結構居心地が良いと感じています。
それは恐らく、同じ方向性の意見を持つ方をフォローしているからです。
同じ方向性の意見は耳障りがいい。
人は自分の意見を裏付ける情報を集めたがるのです。
これが確証バイアスですね。
また自分と逆の方向の情報については、別の観点から新しい反論を思いつき、更にかたくなになるという傾向も脳科学上認められます。
いわゆるいちゃもんをつけているような感じですね。
なおこの情報収集の歪みですが、賢い人ほど、歪めやすいみたいですよ?
みなさんはいかがですか?
いずれにせよ、
誰かを説得するときに、相手に不利で自分に有利な情報を突き付けることは、最適なアプローチではない
ということです。
ワクチンの有効性はこんなに素晴らしくて、リスクはこんなにも低いという結果がたくさん出ていますよ?というのは、この観点から言えば、非常に悪手なわけですね。
何かを正しいと信じる強い動機の前には決定的な反対証拠ですら役に立たないのです。
これを忘れて対応しても、反発を招くだけなのですね。
感情を揺さぶる
では事実ではなく何が相手の意見を変えられるのか?ということですが、
その一つとして感情を揺さぶることが挙げられています。
淡々としたスピーチより、感情のこもった熱いスピーチの方が聴衆の心に響くというのは、みなさんも経験がおありかと思います。
感情というのは本質的に、外部の事象や内なる思考に対する肉体の反応なのだと思います。
感情を揺さぶるということは、極めて大きな反応なのですね。
事実を押し付けるよりもはるかに強力なのです。
ムチよりアメ
みなさんはムチとアメはどちらがお好きですか?
Twitterにおける一部界隈ではムチのがお好きな方もおられますが、一般的にはアメの方が好きなはずです。
えー。話を戻しまして、
ムチよりアメが好きというのを、もう少し真面目に言い換えると、
○○したら罰を与える、よりも
〇〇したら褒美を与える!のほうが、
ハートに響く!
というわけです。
人は動物として快楽をもたらすものに近づき、苦痛をもたらすものから離れるという心理を持っています。
その方が生きる上で効果的だからですよね。
だから
行動要請と脅威よりも、行動要請とポジティブな結果のほうが効果的なのです。
投資しないと老後2,000万円は無理だぞ!暗い老後だぞ!というよりも、
投資をした結果、こんな成果が得られるぞ、明るい未来があるぞ!というほうが受け入れやすいのですね。
人を説得するアプローチとしては、何らかの希望をもたらす方が効果的というわけです。
ただし不安が上手く作用することもあります。
それは下記の二つの時です。
- 何もしないように仕向けている
- 説得する相手がすでに不安な状態にある。
こんな状況は身近にありますよね?
そうです、ワクチンを避けている人です。
副反応が不安な人にワクチンを接種しないように呼び掛けることは、非常に効果的なアプローチというわけです。
これを崩すには、事実を押し付けるだけでは到底上手くいかないのですね。
いずれにせよ、希望をもたらすポジティブな情報を強調する方が、相手の意見を動かしやすいということです。
コントロールしたいという衝動
人は自身のコントロールを外した時に、ストレスを感じる心理があります。
車の運転をされる方は助手席に座るよりも、自分で運転する方が安心されるかもしれません。
飛行機恐怖症の方の主な原因は、自分の命がパイロットや飛行機の状態、天気という自分以外の因子にコントロールされていることへの極度の不安からくるとも言われています。
あなたが管理職に成り立ててであればこの感覚は理解しやすいかもしれません。
私は管理職ではないですが、この心理が非常に理解できます。
これが行き過ぎるとマイクロマネジメントになり、チームが疲弊してしまうわけです。
話が飛びましたが、要は、人はコントロールしたいのですね。
つまり他人に影響を与えるためには、相手は主体性を必要としているんだということを認識し、コントロールしたいという衝動を抑え込まなければなりません。
だから「選ぶ」ということが重要になるわけです。
選ぶという行為は主体性を与える格好の行為です。
ワクチンに置き換えれば、強制接種は反ワクチンの反発を一層強くするだけとなるでしょう。
そしてもし可能であれば、接種するワクチンを選べるとよいのだと思います。
そこには主体性があり、接種する人の選択という名のコントロールがあるのですからね。
まとめ
さて、読んでいて気になったキーワードをピックアップして解説してみました。
これまでのお話を私なりにまとめると下記のとおりです。
人は機械ではなく、感情を持つ生き物である。
相手の意見を変えるためには、
情報という影響の1因子だけではなく、
他の強いチャンネル、すなわち感情に訴える必要がある。
相手をコントロールせず、否定せず、希望の持てるポジティブなメッセージを伝える。
それが相手の意見を変える糸口になるかもしれない。
上でご紹介したキーワードは私が勝手にセレクションしたものですが、本書にはまだまだ役に立つ内容がたくさんあります!
ぜひお手に取って読んでみて頂けると嬉しいです!