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超高額薬ゾルゲンスマ、なぜ高い?薬価が決まるまでの軌跡とトラブル

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先日、新薬の薬価算定の3つのルートのお話をしました。

参考:新医薬品の価格はどうやって決まるの?薬価算定制度における3つの道筋 

今日はケーススタディということで、最近話題の超高額薬ゾルゲンスマの「薬価の中身」を見ていきたいと思います。

併せてこの「薬価が決まるまでの軌跡と揉め事についても少し触れてみたいと思います!

 

目次

 

 

薬価算定はどのルート?

先日の復習になりますが、薬価算定には類似薬が存在する場合の「類似薬比較方式Ⅰ,Ⅱ」、そのカテゴリーで初めてとなる場合の「原価計算方式」があるとご説明させて頂きました。

 

当然、新規性の高い薬剤でそのカテゴリーの先陣を切る、原価計算方式で算定される薬剤のほうが高くつく「可能性」が高いです。

では、約1億7,000万円という超高額の薬価が付いたゾルゲンスマは、画期的な新薬ということで、類似薬がないので、原価計算方式で算定されたのでは?と思われましたか?

 

実はそうではないのです!

ゾルゲンスマには類似薬があります

そのため「類似薬比較方式Ⅰを用いて薬価が決まった」のです。

それなのに、なぜそんなに高額になったのでしょうか?

ということで、気になる薬価の内訳を見ていきましょう。

 

薬価の内訳

基準となる薬価

類似薬比較方式Ⅰにおいては、「同じ効果を持つ類似薬がある場合には、市場での公正な競争を確保する観点から、新薬の1日薬価を既存類似薬の1日薬価に合わせるというルール」があると、先日ご説明しました。

 

前述のとおり、ゾルゲンスマには類似薬があります。

それが「スピンラザです。

このスピンラザ、1回あたりの薬価は949万3024円です!

これもなかなか高いのです!

 

しかし、この既存類似薬の1日薬価に合わせるのでは、文字通りけた違いに高くなるのはおかしいですよね?

これは薬剤の使い方が特殊なためです。

 

スピンラザは投与初期は頻回投与、その後は4か月に1回投与が継続的に必要です。

ところがゾルゲンスマは1回打てば治療が完結するのです!

つまり原理上は比較にならないほど、ゾルゲンスマはお得なわけです。

 

そこで今回は特例的な対応をすることになりました。

臨床試験の結果から、ゾルゲンスマを使うことでスピンラザを使わなくてよい期間(あくまで試験結果より算出、投与制限が2歳未満であることも考慮)を計算したのです。

 

この価格がいわゆる「既存類似薬の1日薬価に合わせる」という対応になります。

そして計算された結果、基準薬価はスピンラザ11本分に該当するとされました。

つまり基準薬価は949万3024円×11本=1億442万3264円です!

 

だいぶ跳ね上がりましたね。

でもまだ1億7,000万には届きませんね?

 

そうです!

これに補正加算が加わるのです。

 

 

補正加算の計算①

補正加算には2つのカテゴリーがあります。

まずは画期性加算と有用性加算ですね。

画期性加算は下記の要件を全て満たすもの、有用性加算Ⅰは2つ満たすものです。

有用性加算Ⅱはここでは省略します。

詳しくは先日の記事をご覧ください。

画期性加算の要件  臨床上有用な新規の作用機序を有する
・ 類似薬に比べ、高い有効性/安全性を有することが客観的に示されている
・ 新薬における疾病/負傷に対し、治療方法の改善が客観的に示されている

 

ゾルゲンスマは画期性加算をもらえたのでしょうか?

残念ながら画期性加算をもらえず、有用性加算Ⅰとなりました。

要件を一つずつ見ていきましょう

 

臨床上有用な新規の作用機序を有する

 ゾルゲンスマはSMNタンパク質をコードする遺伝子を組み込んだウイルスベクターであり、正常な遺伝子を細胞に直接的に導入するという新規の作用機序を持っています。

このことから、要件を満たすと判断されました。

 

類似薬に比べ、高い有効性/安全性を有することが客観的に示されている

既存の治療薬と比べて、1回で済むとの利点はありますが、高い有効性と安全性を有するとまでは言えず、この要件は満たさないと判断されました。

 

新薬における疾病/負傷に対し、治療方法の改善が客観的に示されている

ゾルゲンスマ1回の治療で長期間の有効性が認められており、治療方法の明らかな改善が示されていると言えます!

つまりこの要件は十分満たしていると判断されました。


以上より、有用性加算Ⅰで40%加算が妥当と判断されました。

ところがこれ対して、ノバルティスが不服を申し立てました。 

不服の内容 

・ゾルゲンスマ投与後にスピンラザが投与不要となる期間の薬剤費の計算において、スピンラザを投与した患者のみを考慮した薬剤費ではなく、スピンラザ投与が不要であった患者も考慮した薬剤費と比較すべき

・補正加算について、ゾルゲンスマの画期的な有効性等を追加で評価すべき

 

 これを受けて、下記2点を認め、加算率は50%に引き上げられました

認められた内容  

原理的には根治の可能性もある新規作用機序であり、臨床上特に有用であること。

・ゾルゲンスマは1回の静脈内注射で投与が完結して患者負担が軽減されること。

 

 

補正加算の計算②

補正加算の区分はもう一つあります。

小児加算や市場性加算、先駆け審査加算ですね。

今回は小児加算や市場性加算は該当しませんでしたが、ゾルゲンスマは先駆け審査指定制度に指定された化合物でしたので、先駆け審査加算が加わることとなりました!

 

しかし、先駆け審査指定制度で重要な日本における臨床試験を実施していないことから評価は限定的となり、10%の加算にとどまりました

この点については後述します。

 

薬価のまとめ

さて材料が揃いました。

改めて見ていきましょう。 

薬価算定の材料 

・基準薬価:既存類似薬スピンラザ11本分(1億442万3264円

・補正加算①:有用性加算Ⅰ(50%

・補正加算②:先駆け審査加算(10%

 

 これを踏まえて計算してみましょう!

薬価:1億442万3264円×1.6=1億6707万7222円

 

はい!無事に計算できましたね。

こんな風に薬価が計算されていくのです!

割とシステマチックであり、不服申し立てで10%加算されたりと、流動的なところもあるのが面白いところですね。

 

なおゾルゲンスマは先日ご紹介した医療技術評価による薬価修正の対象となっています。

参考:【薬価のお話】薬の承認はゴールではなくスタート!HTA(医療技術評価)の基本

通常、希少疾患は対象とされませんが、ゾルゲンスマは非常に高額なので、特例的に対象とされました。

このあたりのお話はまたいつか。

 

高い!高すぎる!!

なんて騒がれたゾルゲンスマですが、その薬価の内訳を見てみると、そこまで吹っ飛んだ価格ではないのでは?と思いませんか?

確かに先駆け審査加算については、後述のとおり、ちょっと議論が残るところではありますが、それでも10%です。

 

本当に1回きりで治療が完結しうるかは、まだ確定されたわけではないと思いますが、もしそれが実現できるのであれば、こんなにお得な話はないわけです。

もちろん患者さんにとってもメリットは大きいですよね!

 

世界で一番高い!とか

1回の治療で1億越え!

製薬会社を儲けさせるだけ!

なんて、言われていますが、冷静に中身を見れば、そんなにおかしいものでもないということが分かるはずです。

 

薬価のお話は面白いお話(自称)がまだまだたくさんあるので、どこかでまた取り上げたいと思いますー!

 

 

おまけ:激おこPMDAと先駆け審査指定制度の活用

なぜPMDAは激おこなのか

先駆け審査指定制度を用いると、審査期間を半年程度に短縮することができます。

参考:そんなにいじめないで!「先駆け審査指定制度」と「ゾフルーザ」(塩野義製薬:4507)

 

つまり早く患者さんのもとに届けることができるのです。

そのような努力をした医薬品におまけしてあげるのが、先駆け審査加算になります。

ところが、ゾルゲンスマは承認までに1年4か月もかかりました

これはPMDAがどんくさかったのでしょうか。

 

そんなことは全くありません。

どんくさかったのはノバルティスのほうです。

この件はゾルゲンスマの審査報告書を読んでみると、よく分かります。

 

控えめに言って、PMDAは激おこぷんぷん丸です!

いえ、カムチャッカインフェルノぐらいにはぶちギレています。

具体的にはこんな表現を用いています。

 

「このような多数かつ多岐にわたる問題は、資料の十分性の問題にとどまらず、日本の患者に適用する製品の品質、安全性および有効性を担保するために重要な事項についての申請者の認識が極めて不十分であったことに起因すると考える」

 

溢れる怒りがこの1文に込められていると思いませんか?

「多数かつ多岐にわたる問題」とか

「極めて不十分であったことに起因する」とか

審査報告書作成者のキーボードがへこんでしまったのではないかと思われる程の、強い怒りを感じますね。

かたかたかた・・・っターーン!!

 

基本的にはPMDAは審査報告書でぶちギレることはあまりありませんので、これを読んだときは、驚きました。

 

キレた原因は簡単にまとめますと下記3点です。

 

1.先駆けのプロセス無視

先駆け審査指定制度で指定されると、申請前に「先駆け総合評価相談」というプロセスがあります。

色々打合せして、事前にすり合わせてから申請しましょ!ということです。

ところがノバルティスはこれを無視しました。

約束守らないのはよくないですね。

 

2.問い合わせの回答遅延(10か月かけた)

ノバルティスが申請した資料に対して、PMDAが申請の重要な問題点について問い合わせを行いましたが、なんとその回答に10か月かかりました。

仕事が遅いのはダメですね。

やる気あるの?って言われちゃいます。

ましてやいち早く承認できるように先駆け審査の指定まで受けているのに

 

3.不適切データ発見

これが最もクリティカルなことかもしれません
ノバルティス子会社でゾルゲンスマを開発したアメリカのアベクシスによる治験製品の出荷試験で、不適切なデータ操作(in vivo生物活性試験)が行われていたことが発覚したのです。

データいじくるのは一番やっちゃいけないことです。

これはPMDAがキレても仕方ないですね。

 

そんなこんなで、先駆け審査指定制度を活用できず、承認にも時間がかかりましたが、ルールに従い、先駆け審査加算をもらえたわけです。

 

それはダメでしょ?という指摘が中医協でもたくさん出ました。

私は薬には罪はないと思うので、加算自体は反対しませんし、そんなにいじめないでと思いますが、指摘はもっともですね。

 

ノバルティスはディオバン事件や安全性の報告不備等、色々と詰めが甘いところがありますので、その辺りはしっかりしていただきたいところです。

なんせ世界有数の製薬会社なのですからねー!

人のことをあれこれ言う前に、私もちゃんと仕事しなきゃ!

 

雑記:100記事目

ちなみにこの特に変哲のない記事が、ブログ開始100記事目でした!

みなさま、いつもありがとうございますー!

これからもよろしくお願いいたします。

 

参考

・ゾルゲンスマの記事

億越えの世界一高価な遺伝子治療薬ゾルゲンスマ承認、薬価はどうなった?(ノバルティス

中央社会保険医療協議会総会(第458回)議事次第

・ゾルゲンスマ 審査報告書

 

※当ブログにおける見解は個人的見解であり、所属する企業の見解ではございません。また特定の銘柄の購入を推奨するものではありません。