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COVID-19関連

後続の国産ワクチン開発における、プラセボに対する倫理的配慮、試験実施へのハードル

ファイザー(ビオンテック)、モデルナをはじめとして、COVID-19に対する優れたワクチンが開発され、世界各国で接種が進んでいます。

 

日本でもそれに続こうと、塩野義をはじめとした国内企業が国産ワクチンの開発を進めております。

しかしワクチンの有効性を確認するためには、大規模なプラセボ対照の臨床試験において、発症予防効果を確認しなければならず、ワクチン接種の進む現状において、敢えてプラセボを使用することに対する倫理的な問題が取りざたされてきました。

 

実は本件につきまして、PMDAから指針が出ております。

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンの評価に関する考え方(補遺2)

プラセボ対照試験の被験者等に対する倫理的配慮について(令和3年6月11日)

今日は上記指針の内容を読み解き、後続ワクチンにおけるプラセボ対照の在り方や倫理的配慮について、そしてどのような試験であれば許容されるのか?を考えてみましょう。

 

COVID-19ワクチンの開発に必要な試験

まず初めにCOVID-19のワクチン開発に求められている試験について、復習しましょう。

 

参考となる資料は同じくPMDAから発出されている下記の資料です。

「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンの評価に関する考え方」

(令和2年9月2日医薬品医療機器総合機構ワクチン等審査部)

本件については下記の記事で簡単に解説しましたので、詳細はそちらを参照して頂ければと思います。

アンジェスはだいじょぶ?新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンの評価に関する考え方 9/2にPMDAのワクチン等審査部が新型コロナウイルスワクチンの評価に関する考え方を発表したと教えて頂きました。 2020...

 

るな
るな
要は「発症予防効果を見るプラセボ対照の大規模試験を行わねば、ワクチンの有効性や安全性は分からないよ?」ということです

ただし現在、抗体価と発症予防効果の関連性については研究が進んでおり、有効性推定値に外挿できるのではないか?という論文も出ております。

つまり「発症予防効果を直接確認することに変わり、抗体価をサロゲートエンドポイントとして用いることで、既存ワクチンとの非劣性(劣っていないこと)を確認する」ということも想定されるということです。

 

塩野義やKMバイオはこの方法を用いる可能性があります。

一方で抗体がうまく産生されていないアンジェスのDNAワクチンは、恐らくこの方法は使えないはずです。

抗体価を外挿できないからです。

 

アンジェスによれば、自然免疫の誘導により、発症予防効果が期待できるとのことですが、現状の公開されている情報からでは、私は有効性は見いだせませんでした。

地道に大規模試験頑張ってね。

るな
るな
お金は本業で何とかしてください。

後続ワクチンにおける開発の難しさ

次に後続ワクチン開発の難しさについて、復習しましょう。

こちらも別記事に簡単にまとめてあります。

【新型コロナ】後続ワクチンの開発に必要なこと、その難しさ【アンジェス】 ファイザー(ビオンテック)、モデルナの新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンの臨床試験結果が世の中をにぎわせています。 ...

有効なワクチンが全くない状況でプラセボが含まれる治験に参加するのとはわけが違うのです。

既に非常に優れたワクチンが存在しています。

 

周りがそのようなワクチンを接種しているにも関わらず、自分は接種せずにプラセボに当たるかもしれない、ヒトでの有効性もまだ明らかではないワクチンの治験に参加するというのは、かなりハードルが高いといえるでしょう。

実際に海外の治験において、他のワクチンを接種するために同意撤回し、治験を中止した事例も起きています。

 

例えば既存のワクチンの効果がいまいちだったり、安全性に懸念があるなら、だいぶハードルは下がるでしょう。

治験で取り扱うワクチンが既存より優れているものである可能性が考えられるからです。

 

ところがCOVID-19の既存ワクチンはあまりにも有効性/安全性が高く、それ以上を求めるのが難しい状況なのです。

これは私も開発開始当初は全く想定していませんでした。

正直なところ、mRNAワクチンは安定性の問題もあり、上手くいかないだろう。

不活化ワクチンだってインフルエンザとか見れば、せいぜい有効率50%程度だろうと思っていたのです。

 

ですので、海外でワクチン開発が先行しようとも、国産が日の目をみることがあるかな?と思っていたのです。

るな
るな
※ただし印刷屋は除く

 

ライバルが強力というのはそれ自体が治験参加への高いハードルとなっているというわけです。

 

ワクチンで考えにくいなら治療薬で考えればよいと思います。

いま、あなたが受けている治療は、効果がありますが、完治には至らない、副作用が大きい。

だからもっと良い治療を受けたい

そんな時に期待の新薬の治験があり、今以上の成果が望めるかもしれないとなれば、治験参加の意欲がわくかもしれません

しかし現在あなたが受けている治療の効果が非常に高く、

副作用もほとんどなく、そのまま治療を進めても問題なく治りそうだ!という時

プラセボの含まれる、効果が未知数の薬の治験に参加しようと思うでしょうか?

負担軽減費、社会貢献等考慮しても、なかなかおいそれとは参加できないのではないか?と思います。

後続ワクチンの開発というのは、かなり難しいのです。

後続ワクチンはどうすればよいのか?

さてそれではそんな後続ワクチン試験におけるプラセボ対照において、どのような配慮がなされるべきなのでしょうか?

またどのような試験であれば許容されるのでしょうか?

ヘルシンキ宣言では、プラセボの臨床試験での使用について

最善と証明された治療を受けなかった結果として、重篤または回復不能な損害の付加的リスクを被ることがないと予想される場合に限られる」とされています。

これを大きくとらえると「既存ワクチンを接種しないことの不利益があってはならない」ということです。

だからこそ、倫理的な配慮が必要となるわけですね。

 

PMDAの資料には日本で既に実施されている、または今後実施されるSARS-CoV-2ワクチン開発に係る臨床試験において、プラセボ群を設定する際等の倫理的配慮についての例示がなされています。

簡単にかみ砕いてみました。

 

プラセボ接種後の実薬接種、公的接種プログラムへの参加

プラセボが当たってしまった場合、治験薬が既に国内外で承認や緊急使用許可がなされている場合は、治験薬の接種機会を提供することが望ましいとされています。

るな
るな
「プラセボ群あるけど。どっちに当たっても、絶対実薬接種できるよ!」というデザインですね。

また実薬提供が困難な場合は、「公的接種プログラムへの参加を検討するよう助言する」ことも一つの方法だとされています。

 

さて、「あなたが接種したのはプラセボだから、実薬を別で接種しましょう、または公的接種プログラムに参加したほうがいいよ?」というために必要な情報は何でしょうか?

るな
るな
それは「プラセボを接種した」という情報です。

そんなの当たり前ではないか?と思われるかもしれませんが、これはなかなか大変なことなのです。

 

臨床試験は多くのケースで二重盲検試験となります。

(やや誤解を招きかねませんがお許しを)

二重盲検とは企業も医師も、そして患者さんも、接種する治験薬が実薬なのか、プラセボなのか分からない試験です。

 

なぜこんなことをするかというと、実薬だとわかってしまうと、様々なバイアスがかかってしまうからですね。

別の項目で述べたので、ここでは省略いたしますが、例えば、実薬だからよく効くだろう、とか、実薬だから副作用が出るだろうといった先入観でデータが歪むためです。

 

年初にアビガンの承認申請が上手くいかなかった理由の一つが、単盲検試験であることが挙げられていました。

バイアスの影響というものは軽視できないのです。

 

話を戻しますが、ワクチンの第3相試験はプラセボ対照の二重盲検試験が想定されます。

すると「プラセボを接種した」という情報を得るためには、盲検を解除しなければならないわけです。

 

解除したことにより結果を歪ませないために、また被験者が早期に実薬なり公的接種なりを受けるために、盲検解除の時期を見極めなければなりません。

るな
るな
要は「臨床試験のエビデンスと倫理的配慮の両方を確保できる時期を見極めて決める」ということです。

臨床試験の進捗を踏まえ、公的接種プログラムの進捗も考慮しながら、医療従事者、高齢者、基礎疾患者と接種の優先順位が高い人から解除していくことになるでしょうが、かなりセンシティブな対応となるでしょう。

 

これから始まる試験でプラセボ接種が許容されるケースの例

今後行う試験でプラセボ接種が許容されるケースはどのようなものが考えられるでしょうか?

資料に挙げられていた例を示します。

公的接種プログラムが開始されていない集団を対象にする

⇒うーん、通常の試験は海外でないと今後は難しそうですね。

 

・開発ワクチンの有効性や安全性が未確認の集団(小児や妊婦)を対象にする

⇒ファイザーやモデルナのワクチンについて、国内で小児や妊婦対象で試験を実施するような場合ですね。

 

・既接種者を対象に追加免疫を目的とする追加接種を行う

⇒いわゆるブースター接種の試験ですね。

例えば変異ウイルスに対する免疫を確認するために3回目の接種をしたりする場合でしょうか。

 

クロスオーバー試験の設定

⇒その他の方法として、被験薬の有効性が示された場合は盲検化クロスオーバーデザインに変更する等が考えられます。

ちなみにクロスオーバーとは文字通り、クロスさせることです。

では説明になりませんが、

プラセボを接種した人は、一定期間後に実薬を接種する

実薬を接種した人は、一定期間後にプラセボを接種する

そういうデザインですね。

このデザインはそれぞれの薬剤の影響や自然経過の影響を考慮する必要があるため、ことワクチンについては、あまり現実的ではないような気はしています。

まとめ

今日は後続ワクチンの開発のハードルの高さやプラセボ対照に対する倫理的配慮について考えてきました。

これは私の完全なる予想になりますが、ワクチン接種が世界で進む中、日本は当然として、海外でプラセボ対照となる大規模臨床試験にて、発症予防効果を確認するのは困難を極めるでしょう。

 

お金も時間もかかり、対象者のリクルートも難しく、倫理的側面での配慮も必要となるのです。

万が一それをクリアしたとしても、既に素晴らしく有効なワクチンが存在しています。

そのリスクに見合うリターンが取れるでしょうか?

国産だからという理由で国はひいきしてくれるでしょうか?

それを医療従事者や専門家、多くの国民が許容してくれるでしょうか?

なかなか分の悪い賭けであるように感じます。

もちろん日本においてパンデミックワクチンを開発するということは大変に意義深く、今後に向けてぜひ頑張っていきたいことではあると思います。

でもそれは「いまCOVID-19の国産ワクチンが上市されるか」とは別の問題です。

 

話が逸れましたが、私の個人的な感覚としては、上記のとおり、大規模試験を海外でも行うことはリスクとリターンが釣り合わないため、

抗体価をサロゲートエンドポイントとして、既存ワクチンとの非劣性を確認することで、試験規模を縮小するとともに、プラセボ使用という倫理的な問題を回避するのではないかと考えています。

 

あくまで個人的な見解ですけどね。

みなさんはどう思われますか?