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【シルガード9】審査報告書から学ぶ、9価子宮頸癌ワクチンの意義や副反応について【HPVワクチン】

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ついに9価の子宮頸癌ワクチン(HPVワクチン)シルガードが承認されましたね!

本当によかった!!

医療関係者や患者さんの歓喜の声とともに高名な先生方が次々と啓発記事を出しています。

 

かつてはメディアの知識も心もない報道により窮地に陥ったHPVワクチンですが、皮肉にもCOVID-19蔓延によるワクチンの重要性の理解を追い風に息を吹き返そうとしています。

 

細かいことは村中先生を始めとした先生方にお任せするとして、私は審査報告書というマニアックなところを中心に、開発背景や意義、有効性、安全性情報について解説させて頂こうと思います。

 

子宮頸癌ワクチンを「副反応が怖い」とだけ考えている方

「薬害」だと考えている方がおられるのであれば、本記事を読んで頂き、よく考えて頂きたいと思います。

 

記事の内容は専門的な部分も含めて記載しますが、とっつきを重視して詳細データについては省略しているところもあります。

詳しくは審査報告書や記載している文献をご参照ください。

 

 

 

子宮頸癌とHPV

子宮頸癌の概要

子宮頸癌は世界中の女性において多く認められる癌です。

日本における人口 10 万人あたりの子宮頸癌罹患率は 16.4 人、子宮頸癌で亡くなる割合は 4.4 人と報告されており、毎年約 1 万人が子宮頸癌に罹患し、約 3,000人が命を落としています

 

欧米では幼い子どものいる若い母親が亡くなる原因につながる癌であることから「マザーキラーと呼ばれています。

 

日本でも近年の子宮頸癌の若年化と出産年齢の高年齢化に伴い、妊娠年齢と子宮頸癌発症の年齢のピークが重なる傾向にあり、妊娠・出産を控えた 20~30 歳代の若年層に罹患者が増えています

 

妊婦健診で子宮頸癌が発見され妊娠継続を終了し、直ちに子宮頸癌に対する治療を受けるか難しい決断をせざるを得ないケースや、幼い子どものいる女性に子宮頸癌が発見されるケースも少なくありません。

 

子宮頸癌と診断された場合、子宮摘出術や放射線療法等の根治的な治療が行われ、子宮の温存が困難な状況となる場合が多いのです。

これは命が助かったとしても、非常につらい問題です。

 

HPV(ヒトパピローマウイルス)との関連、9価の意義

子宮頸癌の主要な原因は HPV 感染であるとされています。

(N Engl J Med 2003; 348: 518-27、Int J Cancer2011; 128: 927-35)

 

HPV 感染の多くは一時的なものですが、HPV が長期にわたり持続感染した場合には、その一部で異形成が生じ、異形成の一部が子宮頸癌になると考えられているのです。(Lancet Oncol 2009; 10:321-2)。

 

全世界においては、子宮頸癌の約 70%に HPV 16 、 18 型が寄与しており、これらの 2 つの HPV 型に次いで 45、33、58、52 、31 型が検出されています。

計7つの型が関与しているということです。

 

また良性の尖圭コンジローマ等を引き起こす低リスク型の HPV として 、HPV 6 、11 型が知られており、日本や海外において、尖圭コンジローマの 90%程度で HPV 6 型や11 型が検出されたと報告されています。

 

要は「全部で9種類の悪い型があるということです!

なぜ9価のワクチンが必要とされているかもうお分かりですね?

 

これら9種の型について、予防効果を発揮したいというわけです。

この辺りの更に詳しい情報についてはここでは省略しますが、審査報告書にはデータ付きで記載されています。

 

また中咽頭癌の原因の一つにHPVウイルス感染があることが分かっています。

男性の感染を防ぐことは女性にとっても重要なことですが、男性自身にとっても直接的に有用なことなのです。

 

従来のHPVワクチンと接種率低下の背景

今回承認されたシルガード9の前にも、HPV 16 、 18 型の抗原を含む組換え沈降 2 価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン(サーバリックス)やHPV 6、11、16 、18 型の抗原を含む組換え沈降 4 価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン(ガーダシル)の2 つの HPV ワクチンがそれぞれ 2009 年 10 月及び 2011 年 7 月に承認されています。

そして2013 年 4 月から両 HPV ワクチンが定期接種化されていたのです。

 

しかし、HPV ワクチン接種後に、因果関係が否定できない(とされていた)持続的な疼痛が特異的に見られたことから、2013 年 6 月から現在に至るまで、定期接種の積極的な勧奨は差し控えられる事態となってしまいました。

 

その結果、日本におけるHPVワクチンの接種率は1%程度と、「先進国ではぶっちぎりの最下位」となりました。

これにより「予防できる癌」であるはずの子宮頸癌により命を落とす方や、子供をあきらめなくてはならない方を多く発生させてしまうことになりました。

 

結局、騒がれた副反応とワクチンとの因果関係は後に否定されました。

知識のないメディアが無駄に騒ぎ立てた結果が、このような事態につながってしまったのです。

 

日本産科婦人科学会からは、HPV ワクチンの積極的な接種の勧奨を再開することを要望する声明が提示されております。

またWHO のワクチンの安全性に関する諮問委員会は、これまでに複数の声明によって、HPV ワクチンを国の予防接種事業として推奨すること、及び当該推奨を変更するような安全性の懸念は認められていないと述べています。

 

・日本は何で定期接種しないの?

・何を考えているの?

 

と、名指しされて非難されているわけです。

 

何と恥ずべき事態なのか。

想像できますか?

これが医療先進国たる日本の姿なのです。

 

他の国も不思議でしょうね。

なぜ日本は医療の先進国なのに、子宮頸癌ワクチンだけこんなにレベルが低いのか。と。

 

 

有効性

さて、ここからは有効性と安全性について見ていきましょう。

安全性については例の副反応が気になるところかと思いますので、周辺情報含めて詳しめに見ていきます。

 

国内第Ⅲ相試験は9 歳以上 15 歳以下の健康女性を対象(目標被験者数:本剤群 100 例)に、安全性及び免疫原性を検討することを目的とした、多施設共同非対照試験が国内 3 施設で実施されました。

 

エンドポイントとしては子宮頸癌の罹患率とするのがもっとも分かりやすいのですが、そんなことは当然できませんので(期間もそうですが、癌に至るまで放置することはできない)、サロゲートエンドポイント(代わりとなるエンドポイント、評価項目、治験として見たいところ)として抗体陽転率を設けています。

詳しく言うと治験薬 3 回目接種 1 カ月後の各 HPV 型に対する血清抗体価の抗体陽転率です。

 

要は「HPVに対する抗体がきちんとできているか」ということです。

結果としてはいずれの型においても抗体陽転率は100%です。

完璧です。

 

たまに反ワクチンの人が「子宮頸癌自体の予防」を証明できていないと言いますが、この辺のことを知らずに騒いでいるのでしょうか。

なお詳細は省略しますが、このHPVの感染を防ぐことが子宮頸癌自体の予防につながることは、別途確認されています。

 

安全性

安全性について、各回接種 5 日後までに発現した注射部位の有害事象及び本剤各回接種 15 日後までに発現した注射部位以外の有害事象のうち、5%以上に認められた有害事象及びその副反応を引用します。

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シルガード9の審査報告書より

注射部分の痛みや腫れが多く報告されていますね。

注射は痛いですからね。

というのは半分冗談です。

これはウイルスに対する感染防御反応でもありますので、まあ起きて当然というものです。

 

なお。治験薬 1 回目接種日から治験薬 3 回目接種 24 カ月後までの期間において、なくなった方や、重篤な有害事象、治験中止に至った有害事象は認められませんでした。

 

国内試験では重篤な有害事象は認められませんでしたが、みなさん気になるのはメディアが騒いでいた「多様な症状(頭痛、倦怠感、関節痛、筋肉痛、筋力低下、運動障害、認知機能の低下、めまい、月経不順、不随意運動、起立性調節障害、失神、感覚鈍麻、けいれん等)」ですよね?

 

この点については世界においても日本においても、安全性が確認されています。

それぞれ見てみましょう。

  

世界における安全性の確認

WHOはHPVワクチン接種後の安全性について、世界中の最新データを継続的に評価し、2017年7月には、HPVワクチンは極めて安全であるとの見解を改めて発表しています。

COVID-19の対応において、WHOは若干信頼を失っていますが、別に科学的なことを捻じ曲げるような組織ではありません。

世界のデータをもとに問題ないと宣言しているのです。

HPVワクチンは2006年から2017年までに2億7000万回の接種が実施されています。

世界各国における大規模調査においても、接種していない人と比べて頻度の高い重篤な有害事象は見つかっていないことも報告されています。

 

また、複合性局所疼痛症候群や体位性頻脈症候群等との日本で騒がれていた「多様な症状の一部」とワクチンとの間に因果関係はないこと妊娠、分娩、胎児奇形への影響も認められないことも報告しています。

 

日本における安全性の確認

日本においては厚生労働省の調査が行われています。

この調査では、ワクチン接種後の「多様な症状」は「機能性身体症状」であると確認され、ワクチンとの因果関係を示す根拠は報告されませんでした

 

また名古屋市で行われたアンケート調査(名古屋スタディ)でも、24種類の「多様な症状」の頻度がHPVワクチンを接種した女子と接種しなかった女子で有意な差がなかったことが示されました。

HPVワクチン接種と「多様な症状」の因果関係は認められていないのです。

 

※名古屋 スタディ

1994年度~2000年度生まれ女性約3万人のデータにおいて、24項目の症状に関してワクチン接種者と非接種者とで比較した調査

なお稀に注射の痛み、恐怖、興奮などのために心拍数が低下して失神(迷走神経反射)が起こることはあります。

このような失神は思春期の女性に多いとされ、HPVワクチン接種対象の年代に一致しています。

注射後は30分くらい安静にしていることが重要です。

失神が起きたとしても安静にしていれば回復します。

  

「多様な症状」に対するPMDAの見解

PMDAにおける見解をまとめました。

PMDAにおいて、この「多様な症状」とHPV ワクチンに関連する文献の検索を行った結果、PubMed で 148 報、医中誌で 105 報の文献が検出されたとのことです。

しかしこれらの文献の内容からは、HPV ワクチン接種が「多様な症状」の発生リスクを増大させるというエビデンスは認められませんでした。

近年、予防接種法及び医薬品医療機器法に基づく副反応疑い報告及び健康被害救済等の対応に加えて、HPV ワクチン接種後に生じた症状に対する報告体制と診療・相談体制が整備され、健康被害を受けたHPV ワクチン接種者に対する救済等の対策も講じられています。

上記踏まえてまとめると、下記2点からHPV ワクチンによる臨床的意義は海外同様に認められると結論付けられました。

 

結論  

・ベネフィット:

国際的に十分に確立されており、日本でもおいても同様に認められる

・リスク:

HPV ワクチンが「多様な症状」の発生リスクを増大させると言える状況ではない

  

このベネフィットとリスク。

秤にかけて考えてみて、

打つことと打たないこと、

どちらが有用だと思いますか?

 

これだけのデータが集められているのに、それを信じずに、よく分からない反ワクチンの言い分を信じてしまうことが正しいことなのか、よく考えてみませんか?

陰謀だとか思うのであれば、もうそれで構わないので、せめて人に触れ回らないで欲しい

 

 

 

まとめ

今日は審査報告書の記載事項をもとに、9価の子宮頸癌ワクチン「シルガード9」について見てきました。

 

いつかどこかで書きましたが、

ワクチンって普通の薬よりありがたみを感じにくいのだと思います。

それは普通の薬は服用することにより、病気の状態から回復に向かうため、薬の効果を実感できますが、ワクチンは健康な状態から病気になったり、重症化を防ぐため、意味があるのか分かりにくいからだと思います。

 

でも私は病気を防げることって素晴らしいことだと思います。

病気になる前に防ぐことができるのです。

病気の苦しみや後遺症を防げるのです。

しかもこのワクチンは「癌を予防することができる」のですからね?

 

自分だけはかからないと思いますか?

もしそう思ってワクチンを打つのを躊躇っている方がおられるならば、子宮頸癌に罹患した方やそのご家族の手記を読まれるとよいでしょう。

 

それでも気持ちが変わらないのであれば、それも一つの選択ですね。

私はちゃんと考えて決めたのであれば悪いことだとは思いません。

でも知識もない状態で、反ワクチンやメディアの言いなりとなって、ワクチンを打たないのであれば、それは違うと思います。

 

ワクチンを受けると副反応が生じる確率はあります。

ごくまれに重篤な副反応が生じる可能性もあります。

それは事実です。

でも受けないことによるリスクも大きいのです。

 

この極めて小さくても「能動的にリスク」を受け入れること

これが障壁になっているのだとしたら、もったいないことです。

極端な例だと交通事故が怖いからと外に出ないのと同じであると、私は思います。

 

いずれにせよ、今回のシルガード承認をきっかけとして、子宮頸癌ワクチンの接種率が大きく上昇し、子宮頸癌が減少することを心より願っています。

 

みなさんも子宮頸癌ワクチンの接種、考えてみませんか?

 

 

※当ブログにおける見解は個人的見解であり、所属する企業の見解ではございません。また特定の銘柄の購入を推奨するものではありません。