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COVID-19関連

【アンジェス】DNAワクチンの臨床試験(PⅠ/Ⅱ)の概要、大阪市大の医療従事者を対象とする是非について考えよう!

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COVID-19のDNAワクチンを開発しているアンジェスの臨床試験情報が少しずつ明らかとなってきました。

大阪市大附属病院の医療従事者をまず対象とするという、議論を呼ぶお話も漏れ聞こえてきています。

 

今日はこれから行われる臨床試験の概要や、組み入れ患者(この場合は健常者)の是非について、考えてみましょう。

 

 

 

治験の概要

参考:臨床試験情報詳細画面 | 一般財団法人日本医薬情報センター 臨床試験情報

 

Clinical trials.govには載っていませんでしたが、JAPICに記載があると教えて頂きました。

今日はそこから引用して、各項目について簡単に見ていきましょう。

 

試験の名称/試験期間

・健康成人を対象としたCOVID-19 DNAワクチン(AG0301-COVID19 1 mg/2 mg)筋肉内2回接種時の安全性及び免疫原性に関する非無作為化、非盲検、非対照、第I/II相試験

・治験期間:2021年7月31日まで

 

非無作為化で非盲検、非対照ですね。

つまり健常成人を対象として実薬だけを打つ試験です。

このアンジェスのDNAワクチンを人に初めて打つ試験ということです。

 

脅すわけではありませんが、First in human試験は特に厳格に行わなければなりません

過去に大きな事故も起きています。

 

・第1相試験の重大事故事例

 近年の臨床試験(治験)における3件の重大事故について見てみよう!(TGN1412/BIA10-2474/E2082) – るなの株と医療ニュースメモ

 

用法/用量/使用方法

低用量群ではアジュバントを含む本剤1.0 mg、高用量群ではアジュバントを含む本剤2.0 mgを2週間間隔で2回筋肉内接種

 

単純な筋肉注射なのですね。

Modernaと異なり、アンジェスのは2週間隔で2回投与とのことです。

 

試験対象

健康成人志願者を対象」です。

大阪市大附属病院の医療従事者とはどこにも書いていませんね。

 

その他の条件をまとめると下記のとおりです。

・20歳~65歳の男女

・ PCR検査で、SARS-CoV-2陰性

・ 抗体検査で、SARS-CoV-2 IgM抗体及びSARS-CoV-2 IgG抗体がいずれも陰性

除外基準は特筆すべきものはありません。

 

要は「COVID-19に感染していない健常者が対象となるという認識で問題ありません。

 

評価項目

主要評価項目

・治験薬の1回目接種時から1回目接種8週後までに発生した有害事象の種類、頻度及び重症度などの安全性情報

・治験薬の1回目接種2週後(2回目接種直前)、4週後、6週後及び8週後のSARS-CoV-2スパイク(S)糖タンパク質特異的抗体価のベースラインからの変動を解析し、免疫原性を評価すること

 

安全性評価は主要では8週間後までですね。

だいぶ短いかかな?と思います。

DNAワクチンということなので、遺伝子挿入のリスクはこの程度の追跡で本当に大丈夫かな?(副次で見ますが)

有効性については「抗体価」を見るということです。

 

副次的評価項目

一部まとめて記載します。

・治験薬の1回目接種12週後、24週後、52週後SARS-CoV-2スパイク(S)糖タンパク質特異的抗体価のベースラインからの変動を解析し、免疫原性を評価すること

・治験薬の1回目接種2週後(2回目接種直前)、4週後、6週後、8週後、12週後、24週後、52週後の下記変動を解析し、を解析し、免疫原性を評価すること

1.SARS-CoV-2スパイク(S)糖タンパク質の受容体結合ドメインに対する抗体価のベースラインからの変動

2.SARS-CoV-2抗体認識部位(B細胞エピトープ)に対する抗体価のベースラインからの変動

3.SARS-CoV-2スパイク(S)糖タンパク質特異的抗体のIgGサブクラス(IgG1、IgG2)のベースラインからの変動

・治験薬の1回目接種8週後以降52週後までに発生した有害事象の種類、頻度及び重症度などの情報を収集し、安全性を評価する。

 

実施医療機関/IRB

・医療機関:大阪市立大学附属病院

・IRB:大阪市立大学医学部附属病院 治験審査委員会

 

ここの医療従事者を対象として治験を行うと、吉村知事等が公表していましたね。

この件は後述します。

IRBは院内IRBを使うのですね。

恐らく6月IRBで審議されるのでしょう。

契約結んで遅くとも7月にはスタートするはずです。

 

試験情報まとめ

JAPICなので、この程度の情報しかありませんでした。

Clinical trials.govに詳細載せて頂けませんかねー?

世界に出すならぜひともご検討ください。アンジェスさん。

その前に非臨床の結果をModerna並みに出して頂けると、みんな嬉しいし、治験参加する医療従事者の方も安心できるかと思います。

 

 

大阪市立大学附属病院の医療従事者を対象とすることの是非

ここからが今日の本題です!

アンジェスが大阪市立大学附属病院の医療従事者対象にワクチン投与を実施するという話が、ニュースで報道されており、議論を呼んでいます。

 

アンジェスは大阪大学発のベンチャーとはいえ、大阪市大附属病院の医療従事者が治験に参加したくない場合、断ることはできるのでしょうか

 

臨床試験は参加する方の自由意志に基づく同意取得が根幹に絶対に必要となります。

一歩間違えれば、臨床試験ではなく、人体実験となってしまうのです。

 

GCPにおける「社会的弱者」の規定

今回の問題点は大阪市大の医療従事者が「社会的弱者」にあたる可能性があるということです。

治験における社会的弱者とは生活保護のような患者だけではありません。

医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(GCP)」における定義と対応事例を見てみましょう。

  

GCP第44条に関する記載

治験責任医師等は、治験に参加しないことにより不当な不利益を受けるおそれがある者(以下、「社会的に弱い立場にある者」)を選定する場合にあっては、その者の治験参加に関する同意が自発的に行われるよう十分に配慮する必要がある。

 

「社会的に弱い立場にある者」とは、治験参加に伴う利益又は参加拒否による上位者の報復を予想することにより、治験への自発的参加の意思が不当に影響を受ける可能性のある個人を指し、病院及び検査機関の下位の職員、製薬企業従業員が例としてあげられます

 

これはいわゆる自由意志を阻害する要因があるケースは注意してねということです!

 

医師会が医療従事者を優先して組み入れて欲しいと提言したとの話もありますが、私はおかしな話だと思います。

そのワクチンの有効性や安全性も確認されていないのに、医療従事者を優先しろというのは理解しがたいです。

治験を行っていると、しばしば実臨床と治験がごちゃまぜになる医師もいますが、治験は治療ではなく研究です。(一部治療を兼ねるものもある)

 

そして今回のワクチンはまだ医薬品ではないのです。

それを医療従事者に優先しろというのはよく分かりませんね。

 

GCP違反ではない

ここでポイントとなることは、別に社会的弱者を組み入れてしまっても、GCP違反になるわけではないことです。

あくまで、十分に注意して組み入れていきましょうということなのです。

ただこれは数多くの症例の中で、そのような症例が組み入れられてしまう場合を想定しています。

 

ワクチン治験だからありうる話なのかもしれませんが、試験全体を医療従事者を対象とする対応の是非は、よく協議されるべきです。

だっていままで承認されたことのない「DNAワクチン」という未知の技術を、大手製薬会社ではなく、バイオベンチャーが治験で確認するわけですからね。

 

Twitterで指摘されてなるほどと思ったのですが、

この試験の対象者は治験実施計画書上は「健常成人」なのです。

大阪市大附属病院の医療従事者とは書いていません

 

だからもしかしたら、治験審査委員会や倫理審査委員会(実施するか不明)では、この件は協議すらされないかもしれません。

 

本当にいいのかな?

自由意志の阻害の可能性以外にも、安全性情報の過小評価の危険もあります。

いわゆるもみ消しや過少報告ですね。

そのあたりも含めて、治験の本質を見失わないようにしていただきたいところです。

 

一つ、過去の事例を紹介します。

自由意志のない同意取得を行った臨床試験の悲劇です。

 

 

キセナラミン事件

キセナラミンは興和株式会社が開発した新しい風邪薬候補でした。

このキセナラミンの臨床試験を行う際に、興和は自社の社員187人に強制的にキセナラミンを服薬させたのです。

結果は惨憺たるもので、副作用で17人が入院し、1名がなくなりました。

この件は興和社員の内部告発により明るみに出ました。

 

この惨憺たる結果というのは、結果としては不幸です。

ただこの不幸な結果があったからこそ、この「人体実験」が明るみに出たとも言えます。

 

臨床試験に参加する被験者は、自由意志による同意が絶対に必要です。

自由意志というのは他から強制や影響を受けていない意志(意思)のことです。

キセナラミンの件は自社の社員を被験者として用いました。

何が問題だと思いますか?

 

ご自身が興和の社員だったと想像してください。

上から新しい化合物の試験に参加してほしい、みんな参加していると言われて、おいそれと断れますか?

 

断ったらどうなるかは明示されなくとも、何らかの不利益があるのではないかと想像するわけです。

この時点で自由意志が大きく侵害されています。

つまり参加したくもない臨床試験に、不利益を被りたくないがために、半分強制的に参加することとなるわけです。

これは臨床試験ではなく、人体実験に近いことです。

 

極端な事例ではあります。

ただし根幹の考え方はさほどずれているとは思いません。

気を付けなければなりませんね。

 

まとめ

今日は情報が少ないですが、アンジェスの予定しているワクチン試験の概要や、大阪市大附属病院の医療従事者を対象として、治験を実施することの是非について、自由意志による同意取得や結果に与えるバイアスを踏まえて考えてみました。

 

COVID-19のワクチンを切望する気持ちはありますが、だからといって、雑に治験をしてもいいわけではないと思います。

 

需給を考えた時に国産ワクチンを開発する意義は分かりますが、それに傾倒しては本末転倒です。

必要なのは国産、外国産問わず、安全性、有効性に優れたワクチン、客観的にそれが担保できるワクチンを必要な時に必要な分を用意できるようにすることです。

 

アビガンや次亜塩素酸、PCR検査の時もそうでしたが、どうも日本の行政はCOVID-19に関する医療関係の対応に関しては変な方向に行きがちな気がします。

もう少し科学的な声にも耳を傾けてほしいところです。

 

 

参考

アンジェスのDNAワクチン自体については、別記事で解説しています。

併せてModernaのmRNAワクチンもご興味がありましたら、参照ください

・DNAワクチンとは?

DNAワクチンってなに?コロナウイルス(COVID-19)予防薬は実現するか?利点や現状について(アンジェス) 

 

・mRNAワクチンとは?

 mRNAワクチンってなに?特徴や利点のまとめ(Moderna) 

 

アンジェスの株価に興味がある人は、下記の記事もどうぞ

・サンバイオに学ぶ、バイオ株のたしなみ

【サンバイオショック】伝説のサンバイオの暴騰暴落に学ぶ、アンジェスの行方【DNAワクチン】 – るなの株と医療ニュースメモ

 

おまけ:ヘルシンキ宣言の記載

世界医師会(WMA)は、特定できる人間由来の試料およびデータの研究を含む、人間を対象とする医学研究の倫理的原則の文書としてヘルシンキ宣言を提言し、改訂を重ねてきました。

このヘルシンキ宣言は治験を行う上で、根底となる重要な事項であり、治験に携わる関係者は遵守しないといけないことです。

関連する記載の和訳を列挙しておきます。

 

社会的弱者に関する記載

・あるグループおよび個人は特に社会的な弱者であり不適切な扱いを受けたり副次的な被害を受けやすい。すべての社会的弱者グループおよび個人は個別の状況を考慮したうえで保護を受けるべきである

研究がそのグループの健康上の必要性または優先事項に応えるものであり、かつその研究が社会的弱者でないグループを対象として実施できない場合に限り、社会的弱者グループを対象とする医学研究は正当化される。

さらに、そのグループは研究から得られた知識、実践または治療からの恩恵を受けるべきである。

 

インフォームドコンセント、同意取得に関する記載

研究参加へのインフォームド・コンセントを求める場合、医師は、被験者候補が医師に依存した関係にあるかまたは同意を強要されているおそれがあるかについて特別な注意を払わなければならない

そのような状況下では、インフォームド・コンセントはこうした関係とは完全に独立したふさわしい有資格者によって求められなければならない

 

 承認されていればね(小声)

 

※当ブログにおける見解は個人的見解であり、所属する企業の見解ではございません。また特定の銘柄の購入を推奨するものではありません。