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【中医協】承認されたのに保険適応されなかった不遇な薬、抗肥満薬オブリーン(セチリスタット)とは?

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以前「承認申請から保険適応までの過程」や、「保険適応における薬価の算定方法」について、解説致しました。(参考に載せています)

その中で、日本は「基本的には承認取得=保険適応(薬価収載)」だと説明させて頂きましたが、ごく一部に例外があります。

 

承認取得したのに、保険適応できずに売り出せなかった薬もあるのです!

今日はその例外である、武田さんの抗肥満薬オブリーン(セチリスタット)について見てみましょう。

せっかく承認取得までこぎつけた新薬が、なぜそんなことになってしまったのでしょうか。

 

目次

 

オブリーン(セチリスタット)とは?

概要

オブリーンは肥満症に対する治療薬です。

肥満症に対する薬というと、いわゆるダイエット薬なの?なんて思う方もおられるかもしれません。

しかし肥満とは美容に関するものだけではなく、病的な肥満症というものがあります。

オブリーンはこの病的な肥満症を対象とした治療薬でした。

 

作用機序

オブリーンの作用機序は脂肪の吸収阻害です。

さて、では脂肪はどのように吸収されるのでしょうか?

小学校で習ったと思いますが、脂肪は膵臓から分泌されるリパーゼによって脂肪酸等に分解され、胆汁酸とともに吸収されます。

このリパーゼを阻害すれば、脂肪は分解されず、分子が大きいので吸収できないというわけです。

つまりリパーゼを阻害して脂肪の吸収を抑えることで、吸収されるエネルギー量(カロリー)を下げよう!というのがオブリーンの作用機序になります。

 

有効性

国内で実施した患者さん対象の臨床試験は4試験あります。

主要評価項目は52週投与時の体重の変化率でしたが、プラセボと比較して有意な減少が認められました

また副次的評価項目でも有意差な改善効果が示されております。

体重関係の値だけではなく、肥満に起因するような収縮期血圧、HbA1c、LDL-C等の改善も認められていたのです。

長期投与においても効果の減弱は認められていません。

要は想定していた有効性については、問題なく示されたということです。

 

安全性

下痢や脂肪便が特に注意するべき有害事象として挙げられましたが、いずれも軽度であり、問題となる事象ではありませんでした。

脂肪の吸収を阻害するわけですから、脂肪便になったり、それが下痢につながったりすることは自明ということです。

現在日本で承認されている唯一の肥満症治療薬であるサノレックス(マジンドール)は、別途ご紹介していますが、中枢神経系に作用する薬剤ですので、サノレックスと比べると実にマイルドな薬ではあります。

要は安全性について懸念すべき事項、議論となるような事項はなかったということです。

・参考:マジンドール(商品名:サノレックス)

抗肥満薬はダイエットサプリじゃない!日本で承認されている抗肥満薬サノレックスの特徴 

 

オブリーンのまとめ

有効性/安全性について何ら問題なく、開発は順調に進んでいたことが分かるかと思います。

この内容をもって、承認申請され、問題なく承認されました。

その後、保険適応され、売り出されるはずだと誰もが思っていたことでしょう。

ところが、思わぬところでストップがかけられてしまいます。

 

そうです。

保険適応/薬価収載について協議する中医協です

 

 

中医協での指摘

参考:中央社会保険医療協議会 総会(第255回) 議事録(2013年11月13日)

2013年11月の中医協において、「肥満症を効能とするものの体重変化率は約2%であるうえ、心血管イベントの発症抑制が示されていないなど同剤の保険医療上の必要性について十分な説明がなされていないと指摘」されました

その結果、オブリーンは保険適応されなかったのです。

 

「そもそも肥満と違って、学会で肥満症の診断というものがあり、今回の治験の中ではBMIが25以上の者であって、かつリスクがある、既に2型糖尿病と脂質異常症を患っているという状況があるので、こういう条件の中で減量を要するのだ」と、審議官は述べておりましたが、これが理解されませんでした。

 

また、「算定組織において、組織にかかったということは、PMDAが認証したわけであり、それに対して薬価をつけるというのが仕事である。それが適当でないという判断はできないわけである」なんて意見もあったのですが、委員の力に押されて、中医協で承認された医薬品を蹴落とすことが決定してしまったのです。

 

詳しくは上記のリンクから議事録を読んでみると大変興味深いですよ。

 

中医協は正義か?

個人的には中医協は嫌いです。

これは私の雑でシンプルな感想です。

薬価を下げることばかり考えているように見えるからです。

それでも医療財政を考えて、厳正に審議した上で結論を出しており、私が嫌いだろうが何だろうが、ちゃんとした必要な組織であるわけです。

 

しかし今回の件でいえば、有効性・安全性を踏まえ、多くの関門をくぐってきた薬剤に対して、薬剤の効果を問う形で薬価収載を拒否する権利が中医協にあるのでしょうか

途中で審議官も述べていますが、私はこれについては権限を逸脱しているのではないかと考えます。

 

肥満症治療薬という、ある意味センシティブな内容の薬剤であることは分かります。

医療上の必要性という部分を見れば、他の薬と比べて悩む部分も分かります。

効果がそこまで劇的ではないのも分かります。

しかしこの薬はあくまで美容のため等ではなく、病的な「肥満症に対する治療薬として認められていた」のです。

 

文句を言うのであれば、PMDAとの事前面談の際や承認審査の時点で、そのような指摘がなされるべきです。(組織は異なりますが。)

中医協のれんちゅ・・・方々は、そういうことをする組織ではないはずです。

まっとうな手順を踏んで治験を行い、承認まで至ったにも関わらず、この段階で蹴り飛ばされたのは、武田さんにとってはさぞ無念だったのではないでしょうか。

 

同じように薬価収載されていない薬で有名なものとしてアビガンがありますが、あれとは全く事情が異なります

アビガンは「一般に出回ってはいけない明確な理由」があったので、薬価収載されない点について、私は何ら異議はありません。

でもオブリーンの件はいまだにちょっと納得しがたい事例ですね。

 

結局、武田さんはこのオブリーンの日本での開発・製造・販売権を導入元企業のオランダのノルジーン社に返却してしまいました。

せっかく日本で臨床試験して、承認までこぎつけたのに。

記者による取材では、「厚労省に対して再審議を今までお願いしてきた」と当局に薬価収載手続きを求めてきたと明かしています。

それでも何らかの理由で保険適応には至らなかったというわけですね。

 

 

まとめ

今日は承認取得しながらも保険適応されなかった薬剤、オブリーンについて見てきました。

みなさんはどう思われますか?

「抗肥満薬は保険適応するべき」だったのでしょうか?

「承認後のこの段階で突き放しても良かった」のでしょうか?

製薬企業が大金と長い時間を使って創ってきた薬剤です。

対象となる患者さんにとっても、この薬が保険適応されなかったことはマイナスではないでしょうか。

 

今回の議事録を見るに委員の一存でひっくり返しているようにも見えます

PMDAではもっと専門的議論がなされていたのです。

正直申し上げると、議事録を読んでいて私ははらわたが煮えくり返りました。

激おこスタットです。(※注釈:激おこスティックとかけている)

あまり知られていない事例かと思いますが、少し考えてみて頂けると嬉しいです。

 

参考

・医薬品の承認申請から販売開始までの流れの解説

医薬品の承認申請から販売開始までの流れとは?一般的な流れを解説

・薬の価格はどのように決まるのか?薬価算定制度の解説です。

新医薬品の価格はどうやって決まるの?薬価算定制度における3つの道筋

 

 

 

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