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COVID-19関連

【アンジェス】今更振り返る、遺伝子治療薬コラテジェン【審査報告書】

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アンジェスはご存知ですか?

COVID-19のワクチン開発に邁進する日本の企業です。

今や日本人の多くが知ることになった、国民的印刷業!

・・・じゃなかった国民的バイオベンチャーのアンジェス!!

今日はそんなアンジェスの素晴らしい?功績(遺伝子治療薬コラテジェン)について、審査報告書をもとに読み解いてみましょう!

いつも邪険にしているから、今日はプラスの面を振り返ってみようという熱い思いに溢れています。

ワクチン開発を頑張るアンジェスに、後方から援護射撃をしてみます。

コラテジェンの概要

コラテジェンは、hHGF 遺伝子の翻訳領域をコードするcDNA を含む5,181 塩基対からなるhHGF 発現プラスミドDNA(ベペルミノゲンペルプラスミド)を成分とする再生医療等製品です。

HGFとは1984 年に肝細胞の増殖に関与するタンパク質として発見されました。

その後の研究で、HGFは、肝障害、腎障害に伴って障害臓器や肺等の間葉系細胞により産生され、障害臓器の上皮細胞系に働きかけて再生を促すことや、

血管内皮細胞の強力な増殖作用を有し、血管新生にも重要な役割を果たしていることが報告されていました。

今回重要なのはこの血管新生に対する作用です。

コラテジェンを虚血病巣付近の筋肉内に投与することで、HGF の産生・分泌による血管新生をもたらし、

血管数と血流の増加により虚血状態を改善させることが確認されました。

その結果ASO及びバージャー病の患者の重症虚血肢に対して適応を取得したのです。

ベペルミノゲンペルプラスミド!

るな
るな
舌噛みそうだよ!

ちなみにここで培った「プラスミドDNA技術」が、COVID-19ワクチンにも活かされているようです。

やはり国民的なバイオベンチャーは一味違う!

対象疾患の概要

ASO(閉塞性動脈硬化症)

ASOは、四肢の主幹動脈の慢性的なアテローム性動脈硬化性変化が原因で発症します。

血管が詰まったり狭くなることで、疼痛や潰瘍、壊疽が起こります。

ASOによる重症虚血肢に対する治療として、血管内治療及びバイパス術による血行再建術が施行されますが、十分な血行動態の改善が得られず、臨床症状の改善が得られない患者さんが少なからず存在しています。

また、血行再建術そのものが施行できなかったり、施行が困難であると判断される患者さんもおられます。

その場合は下肢の切断に至るケースもあるのです。

バージャー病

バージャー病は、ビュルガー病又はTAO とも呼ばれ、四肢の主幹動脈に閉塞性の血管全層炎をきたす炎症性疾患です

病変は四肢のいずれの動脈にも発生しますが、特に下肢の動脈に好発することから、重症化するとASOと類似した下肢の臨床症状(安静時疼痛、潰瘍、壊疽等)を呈することが知られています。

バージャー病は喫煙が原因の一つですので、治療の基本は禁煙と薬物治療になります。

場合によってはASOと同様に下肢の切断に至るケースもあります。

開発の経緯

さて、では次に開発の経緯を見ていきましょう。

もう血と汗と涙の結晶ですよ。

これにはアラケスもにっこり♡

心なしかアンジェスと名前も似ていますね。

1度目の承認申請に至るまで

コラテジェンのヒトへの初めての投与は2001年5月より「末梢性血管疾患の治療のための遺伝子治療臨床研究」として大阪大学医学部附属病院において実施されました。

2001年です!

もう19年も昔なのです。

アンジェスは長い(赤字の)歴史がある企業ということですね。

その後、国内において、標準的な薬物治療の効果が不十分で血行再建術の施行が困難な重症虚血肢を有するASO 患者を対象に、第Ⅲ相試験が2004年より実施されました。

また、既存の内科的治療が無効な潰瘍を有するバージャー病患者を対象に、TAO 一般臨床試験が2004から実施されました。

また、アメリカにおいて、血行再建術の施行が困難な重症虚血肢を有する ASO 患者を対象に、第Ⅱ相試験が 2003年4月から実施されました。

この第Ⅱ相試験では、国内での臨床試験と異なり、本品の投与部位が固定されていたことから、

2005年8月から実施したアメリカの追加第Ⅱ相試験では、国内第Ⅲ相試験と同じく虚血部位の筋肉内にコラテジェンを投与する投与方法が選択されました。

しかしながら、アメリカの追加第Ⅱ相試験については、コラテジェンの有効性の評価に適さない症例が多数組み入れられため、

試験の目的を達成することが困難となり、中止となりました。

「試験デザインがいけてなかった」か、「試験が下手くそだった」ということです。

これらの結果を踏まえ、アンジェスは国内のASO第Ⅲ相試験、TAO一般臨床試験等の成績を基に、

「重症虚血肢(安静時疼痛、虚血性潰瘍)を有する閉塞性動脈硬化症・バージャー病」を効能・効果として、

2008年3月27 日にコラテジェン筋注 4 mg として本品の医薬品製造販売承認申請を行いました!

そうです!!

2008年時点で既に承認申請を行っていたのです。

しかし残念な結果に終わります

機構における審査の結果、提出された臨床試験成績に基づき申請効能・効果に対する本品の有効性及び安全性について明確な判断ができる状況ではないとの見解が示されました。

これを「るな訳」しますと、

るな
るな
こんなんで承認できるわけないでしょ?帰れ!

となります。

この結果を受け、アンジェスは製造販売承認申請を取り下げました。

しかしまだあきらめていなかった!

条件付き承認に至るまで

その後、アメリカにおいて血行再建術の施行が困難な重症虚血肢を有する ASO 患者を対象に、新たな用法・用量で安全性を検討する第Ⅱb 相パイロット試験が 2014年3月から開始されました。

また、第Ⅱb相パイロット試験と同一の用法・用量において国際共同第Ⅲ相試験が 2014年11月から開始されたました!

しかし被験者の組入れに時間を要したため、こちらは被験者登録を中止しています。

国内においては、標準的な薬物治療の効果が不十分で血行再建術の施行が困難な慢性動脈閉塞症ASO 及びバージャー病)患者を対象に、先進医療B臨床研究が 2014 年 10 月から実施されました。

これらを用いてリベンジしたのです。

アンジェスは前回の医薬品製造販売承認申請時に提出したASO第Ⅲ相試験及びTAO一般臨床試験等の成績に加え、新たに実施した先進医療B臨床研究の成績を主要な試験成績とし、再び製造販売承認申請しました。

 

数々の失敗にもめげずに、

こんなに長い時間を使ってまで承認まで持って行ったのです!

この開発試験を継続する熱意と体力は素晴らしいですよね。

まぁ、お金の方は困ったときは印刷業にいそしみましたからね。

るな
るな
無限のパワー(株主の財布)をくらえー!

ちなみにこんなに時間使って特許とかだいじょぶなのかな?

有効性

主な有効性についてまとめてみます。

<潰瘍について>

潰瘍の大きさの改善について、各臨床試験及び臨床研究における結果をまとめます。

潰瘍に関する結果  
  • ASO 第Ⅲ相試験のステージ1では、コラテジェン群及びプラセボ群でそれぞれ11/11 例(100%)及び2/5 例(40.0%)で認められました。
  • TAO一般臨床試験では6/9 例(66.7%)で認められました。
  • 先進医療B 臨床研究では1/1 例(100%)で認められました。

なお先進医療B臨床研究において潰瘍の完全閉鎖が認められた1例では、同側肢の4つの潰瘍のうち主要評価の対象となった1 カ所のみで改善が認められ、他の3 所では改善が認められていません

これについては他の3つの潰瘍については、最大の潰瘍とは支配血流領域が異なることから血流の改善が得られなかった可能性があるとしています。

なお詳細は省きますが、ASO第Ⅲ相試験においては1 例ずつ割付をキーオープンする計画としたり、

試験中にキーオープンした被験者の結果に対し検討を実施したり、

さらに途中結果に基づき事前に規定していなかった早期有効中止を目的とした中間解析を計画したりと、

なかなかぶっとんでいます。

PMDAはこの点ぷちおこでして、

これらは「いずれも適切ではなく、本試験の完全性及び結果の信憑性を大きく低下させるものであり、当該中間解析結果の解釈には限界がある

としています。

しかしながら、その限界を踏まえた上で本品の有効性を検討可能としており、上記の結果から潰瘍については、

ASO 第Ⅲ相試験でプラセボ群に対して本品群で完全閉鎖した患者の割合が高い傾向にあることを考慮すると、

一定の有効性は期待できるとされました。

例数少ないし、色々おかしい試験計画だったし、ほんとに効いていると言えるのかな?

プラセボでも40%改善してますよ?

しかしまぁ何とかクリアしました。

<安静時疼痛について>

Fontaine 分類Ⅲ度の患者の安静時疼痛について、各臨床試験及び臨床研究における結果をまとめます。

安静時疼痛について!  
  • ASO第Ⅲ相試験のステージ1 では、安静時疼痛の改善がコラテジェン群及びプラセボ群でそれぞれ8/16 例(50.0%)及び2/8 例(25.0%)で認められました。
  • またVAS の変化量の中央値[95%CI]は、コラテジェン群及びプラセボ群で、それぞれ-21.5 mm[-33.7, -8.6]及び-10.5 mm[-25.0, -3.7]でした。
  • TAO一般臨床試験では、安静時疼痛の改善が3/7 例(42.9%)で認められました。
  • また、VAS の変化量の中央値[95%CI]は-41.0 mm[-54.6, -18.0]でした。

この結果を受けてどう判断されたか?ですが、

結論から言うとこれはダメでした。

主観的な指標であるVASについて、非対照試験では結果にバイアスが生じる可能性が高く、非対照試験を併合した併合試験結果から評価をすることは限界があるとされました。

また以上の患者集団における結果については、事後的な解析であり、探索的な検討結果であること等を考慮すると、当該患者集団の結果に基づきコラテジェンの有効性が期待できるとの説明は困難と考えられました。

したがって、現時点ではコラテジェンの安静時疼痛に対する有効性が期待できるとは結論付けられないとされたのです。

再生医療等製品に甘々なPMDAでもこれは譲れなかった!

安全性

次に安全性について見てみましょう。

作用機序から想定される副作用としては、血管新生促進に関連する有害事象(良性又は悪性新生物等の発現リスク、糖尿病網膜症・加齢黄斑変性の発現及び増悪)及びアナフィラキシー反応が考えられます。

良性又は悪性新生物等の発現はコラテジェン群41/209 例(19.6%)、プラセボ群3/70 例(4.3%)で認められました。

結構多いですね!

アンジェスとしてはコラテジェンとの因果関係が否定されなかった症例は7例のみであること、

ASO 第Ⅲ相試験ではプラセボ群に対してコラテジェン群では観察期間がより長期(本品群:最長13 年、プラセボ群:12 週)になっていること、

さらにコラテジェンの投与対象となるのは発癌のリスクが高くなる年齢層の患者であること等を考慮すると、

現時点でコラテジェンと良性又は悪性新生物等の発現との関連は明確ではない!としています。

これを受けて機構では、コラテジェンによる良性又は悪性新生物の発現リスクに関する申請者の説明は理解可能であり、

現時点でコラテジェンと良性又は悪性新生物等の発現との関連は明確ではないと考えています。

ただし、コラテジェンはhHGF の産生・分泌により血管新生作用を有することを考慮すると、

コラテジェン投与後の良性又は悪性腫瘍等の発現リスクについて製造販売後に引き続き情報収集する必要があるとされています。

糖尿病網膜症又は加齢黄斑変性及びそれらに関連すると思われる有害事象の発現状況はコラテジェン群12/209 例(5.7%)、プラセボ群1/70 例(1.4%)に認められたとのことです。

現時点で、コラテジェンの投与経験は限られており、コラテジェンの投与と糖尿病網膜症及び加齢黄斑変性の発現及び増悪との関連については明らかではないと考えられています。

ただし、コラテジェンの作用機序を考慮すると、コラテジェン投与による糖尿病網膜症及び加齢黄斑変性の発現及び増悪には注意が必要であり、製造販売後には、当該情報についても引き続き情報収集していく必要があるとされています。

なおアナフィラキシー反応は1例でした。

安全性については、ちょっと懸念が残る結果ですね。

特に腫瘍については気になるところ。

でもアンジェスの言い分も分かるので、この辺の解釈は分かれるかも?

例数も少ないので安全だとは言い切れませんが、危険であるという結果ではないですね。

いずれにせよ、リスクとベネフィットを秤にかけて、どちらを選ぶべきかはよく考えなければなりませんね。

条件付き承認

これらの結果を踏まえて、コラテジェンは5年間の期限付き、下記の条件付きで承認を得ました。

承認条件  
  1. 重症化した慢性動脈閉塞症に関する十分な知識・治療経験を持つ医師のもとで、創傷管理を複数診療科で連携して実施している施設で本品を使用すること。
  2. 条件及び期限付承認後に改めて行う本品の製造販売承認申請までの期間中は、本品を使用する症例全例を対象として製造販売後承認条件評価を行うこと。

海外から非難されている条件付き承認制度を上手に使い、このような結果でも条件付き承認を得ることができたのです。

海外ではこうはいかないでしょう

なお薬価は約60万円と想定外に低く、承認に浮かれているホルダーに衝撃を与えました。

さすが「秘券アンジェス流、隙を生じぬ2段構え」。

ただ喜ばすだけでは終わらせない。

でも正直なところ、ちょっと気の毒ではあります。

せっかく承認されたのにね。

まとめ

さてまとめぐらい真面目にいきましょう。

この内容を受けてみなさんはどう考えられますか?

希少疾患に対する治療薬の開発というものは強く求められているものであり、そこに邁進することは素晴らしいことです。

しかし高価で効果も微妙な薬を上市することは患者さんにとって、良くないことである可能性もあります。

少しでも効くのであれば、価値がある。

これを真っ向から否定することはできません。

しかし医療財政は有限であり、費用対効果ということは無視してはならない問題なのです。

副作用のリスクもあります。

アンジェスに限らず、日本の再生医療等製品の開発において、少ない例数で対照群も置かずに治験を行い、条件付き承認を進める日本の対応は、ネイチャー等から大きな批判を浴びました。

この点を踏まえてもコラテジェンという薬の評価をよく考えなければなりません。

 

ん?あれ?

この記事はアンジェスを応援するコンセプトだったような気がしますが、ちょっとだけずれましたかね?

後方から援護射撃していたら、誤射してしまったみたい。

一発だけなら(略)

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