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【人道的使用】アビガンの臨床試験と臨床研究を振り返る【承認申請】

先日、予想に反して良好な臨床試験結果を叩き出したCOVID-19治療薬候補のアビガン。

承認まであと一歩のところまで来ましたね。

催奇形性の副作用等、懸念すべきところはありますが、その点は別の記事で考察しているので、今回は置いておいて、これまでの臨床研究や臨床試験の流れを振り返り、このパンデミック下における臨床試験や臨床研究のあり方について、一緒に考えてみましょう。

今日の記事は「変革を迎えた臨床研究のこれからを考える。臨床エビデンスの活用と規制のあり方 COVID-19の経験から」を参考に記載しています。

アビガンの臨床研究の流れ

特定臨床研究と観察研究

日本におけるアビガンの特定臨床研究は2020年2月下旬以降に開始されています。

2月と言えばCOVID-19で騒がれ始めたころなので、結構序盤からスタートしていましたね。

2020年3月には、藤田医科大学によるアビガンの特定臨床研究がjRCTに登録され、

その後、臨床研究法の対象外となっている観察研究が治療法の確立していないCOVID-19への人道的な適応外使用という位置付けで2020年3月下旬から国立国際医療研究センターと藤田医科大学を中心に実施されています。

皮肉にもこの人道的な適応外使用というのが、アビガンの開発における大きな障壁となったと考えます。

MHLW新型コロナウイルス感染症対策推進本部は、臨床研究法を管轄するMHLW医政局研究開発振興課と連携して、2020年3月23日付で事務連絡「新型コロナウイルス感染症に対する厚生科学研究班への協力依頼について」を発出しました。

これにより全国の医療機関に対してこれらの観察研究を含む公的研究への参加を要請したのです。

 

その後、MHLW新型コロナウイルス感染症対策推進本部は2020年4月27日付で事務連絡を発出し、アビガンをCOVID-19に適応外で使用する場合は公的研究として実施されている観察研究への参加が必要であることも示されました。

要は「アビガンを使いたいなら、観察研究に登録せよ!」ということです。

2020年4月時点で観察研究の投与患者数は2,000人を超えており、このうち約半分の患者がデータベースに登録されています。

 

アビガンの観察研究は介入ではないのか?

研究を目的として、未承認または適応外の医薬品等を使用することは「通常の診療を超える医療行為」であり、介入に該当します。

つまりアビガンを使った研究は観察研究とはなりえないはずなのです。

ただしCOVID-19下の有事に示された2020年4月27日付事務連絡では下記のように定義されています。

「観察研究とは、医療機関内の倫理委員会等の手続を経て患者の同意を得た上で、本来の適応とは異なる投与等を行った治療について、治療結果等を集積し、分析する研究」

この内容に基づけば、アビガンを使った臨床研究も適応外ですが、観察研究となりうるということでしょう。

アビガンの臨床試験の流れ

COVID-19に対するアビガンの臨床試験はICTRPによると、2020年2月から中国で開始され、2020年7月時点で、イラン、日本、アメリカ、イギリス等15カ国以上で30件以上が実施されております。

観察研究や特定臨床研究は上記のとおり早期から行われていましたが、アビガンの薬事承認には企業治験が必須となります。

そのため、2020年3月末から非重篤の感染症患者を対象に目標症例数96例で単盲検無作為化比較試験が実施されていました(JapicCTI-205238)。

参考:アビガンの臨床試験

どんな試験か見てみましょ?アビガンの国内第3相臨床試験開始、試験概要と用語の解説(富士フイルム) 昨日は新型コロナウイルス感染症に対して、アビガン(ファビピラビル)の有効性を示唆する論文が撤回された話をしました。 今日は明るい話題と...

企業治験は2020年6月までの予定実施期間でしたが、5月に入って国内の感染者数が減少したこともあり、症例登録を2020年8月中旬まで延長していました。

アダプティブデザインということもあってか、症例数も増やし、治験を進めていました。

私はこの条件、例数と患者の減った状況も鑑みて、まず治験は失敗に終わると踏んでいましたが、予想外にも良好な成績を残すこととなり、承認に王手をかけました。

 

規制当局の流れ

さて、先に述べたように医薬品の承認には観察研究ではなく、企業による臨床試験が必要となります。

ただし、薬事承認に必要な臨床試験成績について、5月12日付審査管理課長通知では、承認申請に求められる臨床試験成績に公的研究の研究成果を受け入れることが示されました。

これはCOVID-19に対する医薬品等の審査を最優先で行い、速やかな実用化を目指すためです。

この点について、今回参考にした資料では、公的研究と併せて企業治験の成績を後日提出可能としていれば、当該公的研究は国際的な水準を満たしていなくてもよいと解釈されています。

 

ただ個人的にはこの点は大きな疑問です。

対照群を設けないで行われた研究を、承認申請資料に含めてよいかというと、エビデンスレベルの低さから、よくないことだと思います。

そしてこの通知により、政府はアビガンを5月に強引に承認しようとしました。

しかし幸か不幸か臨床研究は失敗に終わり、その目論見は崩れ落ちました。

アビガンは終わったかに見えましたが、企業治験に最後の望みをかけたのです。

その企業治験が予想外に良い結果を出しましたので、恐らくそのまま承認に至るでしょう。

観察研究の是非

さてなんやかんやありつつも、アビガンは通常通りの企業治験を行い、承認申請に至ったわけです。

つまり言い換えると、観察研究は承認申請を行うための企業治験において、結果的に障壁になったということです。

その点について考えてみます。

 

人道的使用 vs プラセボありの企業治験

アビガンの観察研究は国際的な実施基準では実施されておらず、客観的な評価を行うため
の対照群を設定していませんでした。

つまり医薬品の有効性と安全性を評価するための検証的な臨床エビデンスは得られない研究だったのです。

しかし国の先進医療研究機関であるNCGMを中心としてこの観察研究を推進し、MHLWの4月27日付事務連絡では研究目的による適応外使用を観察研究に位置付け、アビガンの使用に対して観察研究への参加を促しているのです。

これは保健衛生の危機に対して適応外薬の人道的な使用を優先したためと考えられています。

 

一方、同じ時期に承認申請のために企業治験が行われていました。

こちらはプラセボもありました

さて、アビガンに期待を持って、急性期治療に用いたいという医師はこの状況でプラセボがある企業治験に割り当てようとするでしょうか?

そうです。

恐らく人道的使用の観点で、企業治験に組み入れるべき患者が、観察研究に吸われてしまったのです。

事実、公的研究の症例が4月下旬で2,000例を超える状況でしたが、企業治験は期間を延長するくらいに症例登録に苦戦していました。

 

結果論にはなりますが、この観察研究がなければ、アビガンはもっと早く承認申請できたでしょう。

恐らく期間延長もいらなかったはずです。

どうすればよかった?

さて、ではどうすればよかったのでしょうか?

これは非常に難しい問題で、専門家や企業関係者でも議論がなされている状況ですので、私がどうこう言える立場ではありませんが、私見を述べておきます。

やはり、承認申請には企業治験が必要なことを、行政側が明確に提示して、観察研究に患者を吸われないようにするべきだったでしょう。

 

観察研究が承認申請に使えますよーと述べて、むりやり早期承認に持って行った流れもよくありませんでした。

私含め、業界関係者の多くはこのめちゃくちゃな流れに激おこでしたね。

現場の先生方が人道的観点から、推奨される観察研究に患者を組み入れてしまうことは、ある意味当然と言えます。

その流れを野放しするくせに、承認を急がせるというちぐはぐな流れが、この混迷とした状況を招いたのではないでしょうか。

メディアもめちゃくちゃなことを言っていて、非常にカオスでしたね。

今後このようなことがないように、パンデミック下の医薬品開発については、今回の件を教訓として、今後に備えて制度作りを進めていって頂きたいと思います。

 

みなさんはどうすればよかったと思いますか?