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尿からがんを発見!N-NOSE(線虫)はがん1次スクリーニングを担えるか?(HIROTSUバイオサイエンス)

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今年の1月から線虫によるがんの1次スクリーニング技術(N-NOSE)が実用化されたのはご存知ですか?

尿1滴からがんの有無が分かるという、なかなか画期的な技術です。

この技術を有する会社に出資していたイチネンHDが昨年秋に高騰したのを覚えている方もおられるかもしれません。

その時は「へぇーすごいなー」ぐらいしか思ってなかったのですが、今日はそのスクリーニング技術について、真面目に考えていきたいと思います。

がんのスクリーニング

がんのスクリーニング検査というのは、いわゆる精密検査の前の1次検査のことです。

例えば胃がんであれば胃カメラやバリウム検査であったり、乳がんであればマンモグラフィーであったり、大腸がんであれば便潜血検査であったり。

血液検査においては各がんに特異的なマーカー検査を行うこともできますね。

健康診断に行かれた際にオプション検査を提示されることもあるかと思いますが、そこをよく見てみると、がんマーカーの項目があるはずです。

このスクリーニング検査で「健康な人」と、「がんがあるかもしれない人」をざっくりと振り分け、次の精密検査でがんの確定診断をつけるわけです。


 

N-NOSEの紹介

従来のスクリーニング検査では、がんの場所に応じて様々な検査が必要であり、網羅的な検査が難しかったり、コスト面での課題がありました。

そこで登場するのが今回ご紹介するN-NOSEになります。

ある線虫は「がん細胞の存在する人の尿の匂い」を潜在的に見分け、がんのある人の尿に集まるということが分かっています。

この機序は不明です。

何とも怪しい話ですが、検出率は約9割です。

理論はともかく数字としてはそこそこな数字を出しています。

作用機序が不明な薬はPMDA(規制当局)の印象がよくありませんが、検査キットであれば別にいいのかな?

なお後述しますが、この検出率9割を高いとみるか低いとみるかは議論があります。

私はまだ低いと見ます

余談ですが、がんの匂いを検知する犬の話を読んだことがあります。

匂いがするということは何らかの化学物質が発生して、それが犬の鼻の粘膜を刺激しているわけです。

その物質を特定して、検出できれば、同じように1次スクリーニングできるかもしれませんね。

N-NOSEの利点と欠点

利点

主な利点を挙げると下記の5点でしょうか。

1.簡便:尿1滴で検査可能で侵襲性もありません

2.高精度?:がんを見分ける感度は約9割です→後述

3.安価:約1万円で検査可能なため、金銭的な負担は少ないです

4.早期発見可能:ステージ0、1の早期がんも検出可能です

5.網羅性?:1度の検査で全身のがんリスクを調べることが可能です→後述

欠点

さて、一見良いことづくめのN-NOSEですが、欠点もあります。

 1.検出率の「低さ

N-NOSEの検出率は約9割(感度と特異度ともに約9割程度)です。

さっき高精度って書いたでしょ?と言われそうですね。

ニュースだとそう書いてあるのです。

でも、よく考えてみてください。

9割もの確率でがん患者を検出できますが、裏を返せば1割も外すのです。(特異度9割であるため)

1,000人受ければ100人は外すのです。

10万人受ければ1万人は外すのです。

この偽陽性のリスク(がんじゃないのに、がんだと指摘すること)を甘く見てはいけないと思います。

もし「あなたがこの検査を受けて陽性だったとしたら」どう思われますか?

自分には9割の確率でがんがあるかもしれない、余命は?家族はどうするの?

なんていらぬ不安に駆られるかもしれません。

がんがあるかもしれないとなると精密検査を受けるでしょう。

陽性となった場合の精密検査の金銭的、時間的、そして身体的な負担も考慮するべきです。

もちろん本当に癌があったとしたら、早期発見できるベネフィットは相当なものですので、上記のリスクと秤にかけることとなりますね。

ちなみにこのN-NOSEを含めたリキッドバイオプシー検査が、がんによる死亡率を下げたという報告は、少なくとも現段階で私は見たことがありません

これはデータの蓄積がまだというべきか、あまり効果的ではないのか、分かりませんが、その点も考慮するべきでしょう。

2.網羅的な陽性の結果」をどう生かすか

N-NOSEで分かるのは、言うなれば「がんがどこかにあるっぽいということだけ」です。

特定のがんに特異的な検査ではないため、実際に「どこに、どんながんが、どんなステージで存在するか」は精密検査を行う必要があります。

つまりこの検査で「がんっぽい」と分かったとしても、結局そのがんを特定するための検査が必要になるのです。

これがマンモグラフィーであれば、異常があれば乳がんかも?と特定できるわけですが、N-NOSEではそうもいきません。

利点が欠点にもなり得るところが難しいところですね。

もし全身精密検査を行うとなると金銭的にも時間的にも身体的にも、なかなかの負担になってしまいます。

検査だってリスクがないわけではないのです。

N-NOSEの結果の活かし方も普及に向けての課題だと思います。

さて、これらを踏まえて、偽陽性だった場合、「結果的に大丈夫だったのだからよかったじゃない?」というだけで済みますか?

それで済むならこの検査はぜひとも受けてみるべきかもしれません。

自己負担と言えど1万円程度ですし、侵襲性もないですからね。

私はメンタル弱いのでちょっと迷いますね。

たぶん陽性でたら相当なショックで寝込みそうです(笑)


 

まとめ

線虫によるがんの1次スクリーニング技術について考えてきました。

この技術が普及して、がん検診の受診率が向上すれば、早期発見/早期治療に結び付く可能性もあります。

しかしこの検出率ではまだ普及には至らないだろうというのが私の考えです。

もう少し検出率を上げていけるとよいのですけどね。

あとはこの線虫はこのがん!みたいな特異性の向上とかかな?

尿1滴なら特異的に検査しても負担少ないでしょうしね。

まだ実用化されたばかりですが、今後の進展に期待したいところです!

なお健康診断によるがんの早期発見が有用なことは、エビデンスも出ており重要なことですので、定期的な健康診断はぜひ受けるようにしたいですね!

みなさん、健康診断はきちんと受けましょう!