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COVID-19関連

【COVID-19】ヒドロキシクロロキンの心血管系の副作用について考えよう!【審査報告書】

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先日、COVID-19に対するヒドロキシクロロキンの臨床研究において、有効性が示されなかったばかりか、安全性について大きな問題が生じていることを記事にしました。

そのような中、アビガンの審査報告書の記事を読まれた方から、「ヒドロキシクロロキンの副作用についても、もう少し詳しく知りたい」というご意見を頂きました。

ということで、リクエストにお応えして、今日はヒドロキシクロロキンの審査報告書から、問題となった心血管系の副作用を中心にまとめて、未承認薬を使用することの危険性について考えてみたいと思います。

 

なおヒドロキシクロロキンはエリテマトーデスやマラリアのお薬として活躍しており、それらの疾患に対しては有用な薬ということが分かっています。

あくまで「COVID-19に対して未承認であり、広範に使ってよいか?」という議論です。

 

 

要約

・ヒドロキシクロロキンは1950年代に承認された古い薬

・マラリアの薬で有名だが、日本ではエリテマトーデスの薬として承認

・臨床試験データは不足しているが、臨床での実績は多いので承認された

・ヒドロキシクロロキンは QT 間隔延長の潜在的リスクを有する

・承認段階の臨床試験では心血管系の副作用は認められていない

・遺伝毒性についてもアビガンほどではないが注意が必要

・網膜障害のリスクは暴露量に依存して発現

・フランスにおいてCOVID-19に対する使用で43例の心臓系の副作用が確認

・FDAがCOVID-19に対して使用しないように警告

・未承認薬の試験的使用というのはリスクが高い

・未承認薬の広範な使用で安全性に対する懸念事項があってはならない

・臨床試験は有効性/安全性の確認に必要なこと

 

 

前回の記事

こちらにヒドロキシクロロキンの概要や開発の経緯、COVID-19に対する臨床研究の結果等を記載しています。

未読の方は要約だけでも目を通して頂けますと、この記事の論点が分かりやすいかと思います。 

 

開発経緯

 重要な点ですので改めて簡単にまとめます。 

ヒドロキシクロロキンは非常に長い歴史を持つお薬で、一番昔の承認は1950年代にまでさかのぼります。

マラリアのお薬として有名ですが、日本ではサノフィからプラケニルという商品名にて、エリテマトーデスに対するお薬として、販売されています。

エリテマトーデスとは免疫が過剰に働くことにより、様々な症状を来す疾患であり、若い女性に多い疾患です。

 

日本においては、2010年に医療上の必要性の高い未承認薬として厚生労働省より本剤の開発要請があり、2012年3月より、活動性皮膚病変を有するCLE と診断された日本人患者(SLE 合併患者を含む)を対象に世界で初となる臨床試験が国内で実施されました。

その後2015年にエリテマトーデスのお薬として承認されています。

※ここでは便宜上、下記をエリテマトーデスとしてまとめます。

 SLE:全身性エリテマトーデス

 CLE:皮膚エリテマトーデス

 

審査報告書の要約

次に簡単に審査報告書の内容をまとめます。

・効力を裏付ける試験として公表文献成績等を踏まえると、リソソーム内に蓄積したヒドロキ シクロロキンがリソソーム内pH を上昇させることにより種々の細胞機能を抑制することで、抗炎症作用、免疫調節作用、抗マラリア作用、細胞増殖抑制作用等の薬理作用が発現すると推定。

・エリテマトーデスに対する作用機序は十分に解明されているとは言い難く、今後も更なる情報収集が必要であると考える。

・ヒドロキシクロロキンの国内外の臨床使用実績を考慮すると、当該疾患に対するヒドロキシクロロキンの臨床使用は可能と考える。

要は「臨床試験データは不足していますが、臨床での実績は多いので、まあ承認でいいよ!ということです。

 

心血管系の副作用

さて、それでは本題です。

今回の臨床研究で問題となった心血管系の副作用はどのように評価されているのでしょうか。

心血管系に対する影響については、安全性薬理に関する公表文献において、hERG 電流の阻害、PQ 間 隔及び QRS 間隔の延長等が認められていることから、「ヒドロキシクロロキンは QT 間隔延長の潜在的リスクを有すると考えられています。

※QT延長は心臓系の重要な事象です。

 

しかし臨床試験(投与 55 週まで)において、心臓障害に分類される事象、潜在的な催不整脈作用に関連し得ると考えられる事象臨床的に意義のある心電図異常は認められておりません

またリウマチ等の患者を対象とした臨床研究においても、QT延長は認められておりません。

海外製造販売後 安全性情報においては、過量投与以外の症例については、患者の基礎疾患や本剤以外の被疑薬の併用の有無等の情報が不足しており、本剤との因果関係を評価することは困難であったとのことです。

 

以上のことから、「機構としては臨床用量での投与においては大きな懸念は示唆されていないと考えていました。

言い換えれば、心血管系のリスクがあることは分かっていたけど、承認審査段階では臨床において見えていなかったということになります。

今回、COVID-19に対する一部の臨床研究では、この心血管系の副作用が出てしまい、かなりの悪影響を及ぼしております。

 

 

その他の副作用

気になる副作用とそれに関する議論をピックアップしてまとめました。

呼吸器系

呼吸器系に対する影響については、安全性薬理に関する公表文献において呼吸数の増加が認められています。

しかしクロロキンの臨床用量よりも高用量での結果であり、国内臨床試験(投与 55 週まで)において、呼吸器系に関連する事象は認められなかった

現時点において本剤との因果関係が明らかな事象は集積されていないと考えられています。

COVID-19に対する臨床研究では、この事象に関連する重篤な副作用について、言及されていませんが、疾患の性質上、因果関係が見えづらく、もしかしたら何らかの悪影響を及ぼしている可能性も否定できません。

 

遺伝毒性

非臨床に関する公表文献からはヒドロキシクロロキン及びクロロキンに関する遺伝毒性及び生殖発生毒性に関する懸念が示唆されていることから、妊娠している可能性のある女性や妊婦に対す るヒドロキシクロロキンの使用は避けることが望ましいと考えられています。

妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与することされています。

 

ヒドロキシクロロキンはヒトで胎盤通過性及び乳汁移行性を示し、胎児における暴露量は母体と同程度であることが示されています。

乳幼児におけるヒドロキシクロロキンの毒性感受性は成人よりも高いことが報告されており、 胎児の毒性感受性も同様に高いと推測されること等も踏まえると、ヒドロキシクロロキンを妊娠可能な女性患者に使用する場合には、治療開始前に当該リスクの可能性を患者に十分に説明する必要があると考えられています。

また、医療関係者向け資材等において、ヒドロキシクロロキンの催奇形性・胎児毒性リスクに係るより詳細な情報を提供し、注意喚起を徹底する必要があると考えられています。

アビガンほどではありませんが、決して注意しなくてもよいわけではありません

 

網膜毒性

今回はおまけとして扱いますが、本来もっとも注目されるべきはこの副作用でした。

本剤を含む 4-アミノキノリン化合物は網膜毒性を示すことが知られています。

しかし 1 日平均投与量として 6.5 mg/kg(理想体重)を超えない用量で投与する場合には網膜障害を含む眼障害が発現する可能性は低く、投与期間が 5 年間を超える長期間投与の場合に発現すると想定されています。

 

また、国内試験における評価期間は 1 年間のため、眼障害の評価は限定的であるものの、詳細な眼科学的検査を含む検討の結果、本剤投与との関連が疑われる眼障害は認められませんでした。

また、ヒドロキシクロロキンによる眼障害の発現率と人種との関連は報告されていない ことも踏まえると、本邦での製造販売後においても、海外と同様の適切な安全対策下で使用される場合には、眼障害の発現を管理することは可能と考えられています。

 

そのためには、エリテマトーデスの治療の知識と経験を持つ医師が、眼科医と連携して使用すること初期の眼症状の早期把握のための定期的な眼科学的検査を実施すること等の対策を講じ、当該対策が遵守されるよう、 医療関係者及び患者に対する注意喚起を徹底することが重要と考えられています。

 

なお肝機能又は腎機能の低下によるヒドロキシクロロキンの薬物動態への影響は不明ですが、本剤投与時に懸念される網膜障害を含む眼障害の発現リスクは暴露量に依存して増大することから、この網膜に対する副作用は注意しなければなりません。

もっともCOVID-19に対する投与期間は短いので、この副作用はそこまで気にしなくてもよいという考え方もありますね。

 

 

まとめとディスカッション

未承認薬を使うことの危険性

前回記事と重複するところがありますが、大事なことなので改めて記載します。

 

フランス国家医薬品安全庁(ANSM)はCOVID-19に対して、ヒドロキシクロロキンを投与した際に、心臓への副作用が見られた事例が43例あると述べています。

ANSMによると、フランスでは3月27日以降、新型コロナ感染症患者への試験的な医薬品使用に関連した副作用の事例が約100例、亡くなった方が4例、さらに蘇生措置を講じた例が3例あったとのことです。

副作用が出た約82例は「深刻」で、その大半はヒドロキシクロロキンと抗HIV薬ロピナビル・リトナビルでした。

FDAからも使用しないように警告がありました。

 

この薬は「承認」されていました。

しかしCOVID-19に対しては「未承認」です。

心血管系の副作用については予測はされていましたが、臨床試験では見えていませんでした。

今回、なぜ心臓への副作用が見られた症例が多かったのかはわかりません。

ベースとなる状態の違いやCOVID-19罹患患者に特有の事情があるのかもしれません。

 

しかし、一つ言えることは、臨床研究や症例報告で効果があることが「示唆」されたからといって、広く使用するのは極めて危険だということです。

 

たまたま効いただけかもしれません。

 自然治癒かもしれません。

  バイアスも強くかかっています。

   疾患や用法用量が異なれば予期せぬ副作用発現もありえます

きちんとした臨床試験を実施し、比較対象を定めて有意差を出し、安全性について検討せねば、何も確たることは言えないのです

 

そして今回もっとまずかったことは、副作用が強く出てしまったことです。

未承認薬を服薬したことで、不利益を被ってしまった患者さんがいるのです。

効かないかもしれない薬を投与されたならまだしも、それが安全性に影響を与えてしまったわけです。

何だかあまり話題になっていない気がしますが、これは極めて重大な事象であると考えています。

治験の世界において、絶対にあってはならないことだと思います。

 

アビガンが特効薬であると一部で持てはやされています。

確かに有効性が示唆されていますし、インフルエンザ治療薬として承認された日本発の偉大なお薬です。

私も期待しています。

しかし有効性に関するデータのみならず、安全性に関するデータも不足しています。

インフルエンザで承認されていたからデータが出そろっているという指摘はナンセンスです。

 

もしかしたら杞憂かもしれません。

でもアビガンがCOVID-19患者に対して、広く使われた時、ヒドロキシクロロキンのような副作用で亡くなる方が出てきてしまったら、どうするのでしょうか?

メディアは薬害だと騒ぐでしょう。

メディア等どうでもよいとしても、お薬を投与された患者さんにとっては、不利益以外の何物でもありません

 

開発中にアビガンが飲めないで亡くなる患者がいたらどうするのか?という意見も見受けられます。

私の父もソバルディやハーボニーの治験中に亡くなりましたので、気持ちは分からなくもありません。

でも私の結論は変わりませんね。

アビガンが飲めたら治ったかどうかなんて分かりません。

飲んだらクリティカルな副作用で悪化してしまったかもしれません。

それを白黒つけるために、いち早く承認できるようにみんな頑張っているのです。

  

早く特効薬が欲しい気持ちは製薬会社も規制当局も世の中の人と同じです。

しかし「臨床試験で客観的に評価が必要であるという点は絶対に譲ることはできないのです。 

ヒドロキシクロロキンの事例は、この点について考える上でとてもよい素材だと思います。

「ご自身がよく分からない薬を効くかもしれないと投与されて、大変なことになってしまったらどう思うのか」考えてみてもよいのではないでしょうか。

なお現状、私はヒドロキシクロロキンがCOVID-19の適応を取ることは難しいのではないかと考えます。