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「統計学的有意差」と「臨床的に意味のある差」は同じなのか?アナセトラピブを例に考えよう!

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臨床試験の結果について考えるとき、統計学的な有意差がつくことは非常に重要です。

2つの群の結果に明らかに差があると示すためには、統計学的に有意差があることを示さなくてはならないからです。

 

そうでないとその結果は「単なる偶然」である可能性があります。

差がいくら開こうが、ばらつきが大きかったりすれば、統計学的な有意差が出ません。

 

アビガンの特定臨床研究の際に、効果がレムデシビルより強かったとの論調も見かけましたが、統計学的有意差が出ていない以上、そんなものに意味はありません

それはただの偶然だからです。

 

では、統計学的有意差が出ていれば、それはすなわち、試験の成功と言えるのでしょうか?

そしてその差は「臨床的に意味のある差」と言えるのでしょうか?

 

今日はこの微妙な問題について、統計学的に有意差を出したにも関わらず、臨床的に意味のある差を見いだせず、上市できなかった医薬品(アナセトラピブ)の事例をあげて考えてみたいと思います。

 

目次

 

 

 

アナセトラピブの概要

アナセトラピブはメルクの開発していたCETP阻害剤です。

CETP阻害薬とは、コレステリルエステル転送蛋白(CETP)を阻害して良性コレステロールであるHDLを増加、悪性のコレステロールであるLDLを減少させることで、脂質異常症を改善しようとしていた薬剤です。

 

LDLを減少させるだけではなく、HDLを増加させるということが新しいお薬で、結構期待されていたのでした。

 

しかしこの作用機序を持つ系統はいわくつきで、ファイザー、ロシュ、リリーと名だたるメガファーマが相次いで失敗してきました。

 

そんな地雷臭漂う作用機序の薬剤に果敢にチャレンジしたのがメルクです。

メルクは他社の失敗を踏まえ、約3万人という大規模な患者さんに対して、臨床試験を実施しました。

 

この臨床試験は通称REVEAL試験と呼ばれます。

試験期間は4年にも渡りました。

 

 

REVEL試験の概要と結果

REVEL試験の対象は動脈硬化を有する人で、スタチンを入れていてコントロール良好な方です。

主要評価項目は「心血管系イベントの発生率」でした。

 

アナセトラピブ群における心血管系イベント発生率は10.8%であり、プラセボ群の11.8%より約10%(プラセボ群を100とした場合の割合、リスク減少率)低く、統計学的に有意な差も出せました

つまり主要評価項目で有意な差を出せたわけですね。

 

また解析の結果、この効果はHDL増加ではなく、LDL低下に基づくものと考察されています。

つまりこの薬の新規性がいまいち表現できなかったということですね。

 

さてちょっと思うようにはいかなかったわけですが、とりあえず統計学的有意差は出せたのです。

 

勝った。臨床試験、完(元ネタは知らない)

 

・・・しかし

 

メルクはこの薬の開発を断念しました。

 

統計学有意差が出せたにもかかわらず、その差に臨床的な意味を見出すことができなかったのです。

それでは薬を出しても受け入れられない、つまり売れないと判断されたのですね。

 

3万人対象に4年の歳月を費やした試験です。

この試験にかけた金額は1,000億円を裕に超えると言われています。

それでもここで手を引いたわけです。

 

統計学的有意差があったにも関わらず、試験は失敗したのです!!

 

 

考察

ここでもう一度統計学的有意差について考えてみましょう。

統計学的有意差とは、効果が「単に偶然によるものというよりも明らか」に大きいことを示すものです。

 

ここで重要なことは、効果が実際にはどの程度であるかについては何も示していないこと」ということです。

2つの群に差があるということが偶然でない可能性が高いですよー!と言っているだけなのです。

 

つまり、「臨床的に意味のある差と統計学的に有意な差は、必ずしも同義ではないということ」です。

有効性のデータにおいて得られた差が、臨床においてどんな意味を持つのかは別の議論が必要です。

 

ここが中医協で認められなかったのが、以前例に挙げたセチリスタットですね。

参考:

【中医協】承認されたのに保険適応されなかった不遇な薬、抗肥満薬オブリーン(セチリスタット)とは?

 

この件は承認後の保険適応段階で言われたので、フェアではないのですが、今回の件について考えるにはよい事例かもしれません。

  

さて有効性の差が治療においてどの程度の意味があるかを判断することが重要であるわけですが、「臨床的に意味がある」という考えには、2つの群の有効性の差だけではなく、副作用や費用対効果も含めて総合的に判断される必要があると思います。

 

上記の事例でいえば、心血管系のイベントが約10%低下したという「統計学的に有意差のある有効性データ」の価値そのものだけでなく、この薬を服薬したことによる副作用の懸念や、費用についても勘案して、意味があるかを考えなくてはならないということです。

 

それらを総合的に勘案した結果、メルクは開発中止を決定したわけです。

有効性について統計学的有意差を出すことができたにも関わらず、臨床的に意味のある差を見いだせず、試験は失敗したのです。

 

これまでに費やした多大なリソースを捨ててまで、やむなく開発を中止したのには、この程度の差では勝負できないという苦渋の決断があったのですね。

 

統計学的有意差がすべてではないことがお分かりいただけたでしょうか?

 

 

最後に

統計学的有意差と臨床的に意味のある差が必ずしも同義ではないということは、臨床試験に関わる方の中でも忘れがちな事項であると思います。

 

もしかしたら研究者の中でも、どこかにおいてきてしまった方がおられるのかもしれません。

 

統計学的有意差は試験成功の必要条件であって、十分条件ではないのです!
(かっこよく決めたつもりですが、この言葉の使い方あってますよね?)

 

結果を見るときに有意差だけを振りかざしてはいけないのですね。

私も気を付けたいと思います。

 

みなさんも統計学的有意差が認められた時、その差が本当に意味のあるものであるか、よく考えてみてはいかがでしょうか?

  

※当ブログにおける見解は個人的見解であり、所属する企業の見解ではございません。また特定の銘柄の購入を推奨するものではありません。